大手メーカー60社超と10年以上の長期取引を続ける企業がある。株式会社菊池製作所──オリンパス、キヤノン、コニカミノルタ、ソニーなど、名だたる企業から信頼を勝ち得てきた同社の営業手法は、「人間関係」を軸にした独自のアプローチにある。
創業55年、町工場から始まった同社が、なぜ大手企業との長期取引を実現できたのか。その秘訣は、創業者・菊池功社長(81歳)が実践してきた「営業も製造も一体化した顧客サービス」の思想にあった。
創業者自らが実践した「現場営業」の原点
「自分で営業しないと、仕事が取れなかった。それに、どんな試作をするにしても、お客さんの話を聞かなければ、相手の本当に困っていることは分からないんです」
創業当時20代半ばの菊池社長は、技術者でありながら自ら現場に足を運び、顧客開拓を行っていた。当時の営業スタイルは極めてシンプルだ。「営業は私、製造は妻」という分業体制で、顧客との対話から得たニーズを、その場で技術的な実現可能性まで含めて回答していた。
この経験が、同社の営業哲学の根幹となる。「営業と製造を別軸で捉えるのではなく、すべては顧客のニーズに応えるためのサービス」という考え方だ。
長期取引の秘訣は「一括受託」による分断解消
菊池製作所が大手企業との継続取引を実現している最大の要因は、「一括一貫受託体制」にある。設計から試作、量産に至るまでを、板金・金型製造・成形・切削といった各加工工程で一括一貫して請け負うことで、製造工程ごとの分断をなくし、顧客の開発スピードと品質要求の両方に応えている。
「分業体制では、部署や外注先ごとに意図のズレが生じやすい。設計者が『こう作りたい』と思っても、それが製造現場で実現可能かは分からない。だからこそ、設計から製造、材料選定、量産試作までを1社で完結できることが、提案型営業には不可欠なんです」
この体制により、カメラ、プリンター、医療機器、車載機器など、幅広い分野の開発試作に対応。現在では大手メーカー60社以上との継続的な取引関係を築いている。
「石の上にも3年」を実践する関係構築術
同社の営業における最大の特徴は、短期的な受注獲得よりも長期的な関係構築を重視する点にある。取引期間は平均して10年を超える企業が多く、中には20年以上続く取引先も珍しくない。
「メーカーさんから声がかかるのを待つのではなく、自分たちから『こんなことできませんか?』と提案する。逆に、開発テーマがない時期は一時的に案件が止まることもありますが、その間に『次の種』を探す動きが重要になるんです」
菊池社長が実践してきたのは、まさに「石の上にも3年」の営業スタイルだ。短期的な成果を求めるのではなく、顧客の事業戦略や開発背景まで踏み込んだヒアリングを継続し、真のパートナーシップを構築している。
営業担当者に求められる「技術理解力」と「提案力」
同社の営業担当者には、単なる受注活動を超えた役割が求められる。顧客の技術的な課題を理解し、自社の製造能力と照らし合わせた実現可能な提案を行う必要があるからだ。