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序章:生成AI時代に問われる営業の価値
生成AIの普及によって、あらゆるビジネスの現場が急速に変化しています。調査レポートの要約、提案資料の作成、顧客情報の整理といった業務は、これまで営業担当者が多くの時間をかけて担ってきました。しかし今では、AIを用いれば短時間で高精度に処理できるようになっています。その効率性は驚くほどであり、「営業という職能はAIによって代替されてしまうのではないか」と不安視する声も少なくありません。
けれども実際には、その逆です。AIが日常業務を肩代わりするようになればなるほど、営業が担うべき本質的な役割はむしろ重要性を増しているのです。AIは情報を処理することには長けていますが、顧客の本質的な課題を見抜き、組織の壁を越えて関係者を巻き込み、未来の事業の方向性を共に描くことはできません。それは人にしかできない営みであり、そこにこそ営業の存在価値があります。
言い換えれば、生成AIの登場は営業から「作業」を取り去り、「顧客と事業を共創する存在」へと進化することを迫っているのです。そしてその理想像こそ、私たちが「ビジネスデザイナー」と呼ぶ新しい役割です。
顧客の成功を共創する営業
BtoBビジネスにおいて、営業の最も大きな使命は「顧客の事業成功に貢献すること」です。従来のように「自社の商品を売る」ことだけをゴールにしていた時代は終わりました。いま顧客が求めているのは、自社の課題を深く理解し、それを解決するための戦略を一緒に描き、成果が出るまで伴走してくれるパートナーです。
生成AIが進化したことで、顧客も以前より格段に情報武装しています。商品やサービスの比較検討はすでにWeb上で完結でき、営業に求めるのは単なる情報提供ではなく「自社に合った活用法の提案」や「組織的に導入を成功させる方法」です。営業はもはや商品カタログを読み上げる人ではありません。
顧客企業のビジネスに深く入り込み、経営と現場の橋渡しを行う存在になっているのです。この姿勢を一歩進めると、営業やカスタマーサクセスは「顧客と共に事業をデザインする人」、すなわちビジネスデザイナーであると位置づけられます。
ビジネスデザイナーとは何か
では「ビジネスデザイナー」とは具体的にどのような存在でしょうか。私の定義は次のとおりです。
ビジネスデザイナーとは、顧客の課題を構造化し、未来の成長シナリオを描き、その実現に伴走する人。
従来の営業が「商材を販売する人」であったのに対し、ビジネスデザイナーは「顧客の事業そのものを設計する人」です。商材は手段でしかなく、目的は顧客の持続的な成長と価値創出にあります。
この役割を担う営業は、単なる調達窓口ではなく、経営に近い視点を持ったビジネスパートナーとして顧客から信頼されます。顧客の未来像を共に描き、その道筋を設計して実行を支える――これこそがAI時代に必要とされる営業像なのです。
生成AIが浮かび上がらせた営業の本質
生成AIは、営業の「作業」を大幅に軽減しました。顧客データの整理、議事録の作成、提案資料の草案づくり、さらには問い合わせ対応まで、AIに任せられる領域は日々拡大しています。これは営業にとって脅威ではなく、むしろ好機です。
なぜなら、これまで日常業務に追われてなかなか時間を割けなかった「顧客と深く対話し、課題を解きほぐす仕事」に集中できるようになったからです。AIが標準化できる領域が広がるほど、人間にしかできない部分――顧客の未来を共に考える部分――の価値は高まります。
つまり、AI時代は営業を不要にするのではなく、営業の本質をむき出しにする時代だといえるのです。
生成AIが示した営業の理想像
生成AIは営業の役割を奪うどころか、むしろ営業の重要性を鮮明にしました。商品を説明する人ではなく、顧客の事業を共に描き、成功へ導く存在――それがこれからの営業の理想像です。
次章以降では、この「ビジネスデザイナー」という役割の具体像をさらに掘り下げます。どのようなスキルを持ち、どんなプロセスで価値を生み出し、営業組織や企業にどのような変革をもたらすのかを考えていきます。