株式会社JRCは、ベルトコンベヤ部品の製造・販売を通じて、日本の基幹産業を支えてきた企業である。現在は、コンベヤ事業に加え、環境エネルギー事業、ロボットSI事業へと領域を広げ、製造・資源・インフラなど幅広い現場の課題解決に取り組んでいる。
同社が掲げる企業理念は「世の中の『不』をなくす」。その背景には、単なる製品メーカーにとどまらず、顧客の現場に入り込み、課題を見つけ、改善提案まで行う「ソリューションプロバイダー」へと進化してきた歩みがある。
代表取締役社長の浜口稔氏は、同社の根底にある考え方を「お客様の役に立つこと」だと語る。後発メーカーとして市場に参入し、品質で信頼を築き、やがて営業のあり方そのものを変えていったJRC。その変革は、コンベヤ部品のような成熟した産業財市場におけるBtoB企業の成長戦略を考えるうえで、多くの示唆を含んでいる。
■Interviewee
株式会社JRC 代表取締役社長 浜口 稔氏
後発メーカーから品質で選ばれる存在へ
JRCの事業の礎となった転換点の一つが、1989年に淡路島のメイン工場へ導入したローラ自動組み立てラインである。
浜口氏によれば、同社はコンベヤ部品メーカーの中では後発にあたる存在だった。大正時代から続く先発メーカーが市場に存在する中で、JRCは「後発かつミニメーカー」と見られることもあったという。その認識を覆すために必要だったのが、安定した品質を実現する生産体制だった。
自動組み立てラインの導入により、均一で高い品質の製品を安定的に供給できるようになった。結果として、顧客からの評価が高まり、JRCの価値は徐々に変わっていった。単に製品をつくるだけではなく、品質の信頼性によって選ばれるメーカーへ。その変化が、現在の事業基盤につながっている。
ただし、品質の向上だけで未来の成長が約束されるわけではない。コンベヤ部品は長期間使われる製品であり、需要の多くはリプレイスやメンテナンスに関連する。既存顧客からの注文を受け、代理店を通じて製品を納める従来型の営業だけでは、成長には限界があった。
浜口氏は、かつての営業を「待ちの営業」と表現する。代理店がユーザーを訪問し、壊れたローラの交換などの注文が入る。その注文を受けて工場につなぐ。利益は出ていたが、売上も利益も横ばいだった。「利益が出ていたことで、逆に安住してしまった」と浜口氏は振り返る。
「待ちの営業」から現場を見る営業へ
JRCが大きく営業のあり方を変え始めたのは、2014年頃からである。きっかけは、将来に対する危機感だった。
「このままでは、10年後に事業を維持していくことが難しくなるのではないか」。浜口氏の中には、そうした問題意識があった。そこで始めたのが、顧客の現場を見る活動である。最初から明確に「課題解決型営業」を掲げていたわけではない。将来にわたって売上規模を維持していくために、顧客が何を運び、どのような形で生産しているのかをしっかり見ていこうという取り組みだった。
もっとも、現場を見る営業への転換は簡単ではなかった。長年、代理店を経由した販売が中心だったため、営業担当者がユーザーの現場に直接足を運ぶ機会は限られていた。
「現場に行ってお客様の課題を聞くことに慣れていませんでした。聞き出せなかったり、こちらにも知識がなくて、現場を見てもどこを直せばよいのか見つからなかったりしたんです」
浜口氏は、当時の苦労をそう振り返る。
転機となったのは、現場で顧客の困りごとを見つけ、JRCの製品に少し手を加えて提案する社員が現れたことだった。その提案が顧客に喜ばれ、評価された。
「それまでは、製品を納めて終わりでした。自分たちの製品がどう役に立って、どう社会に貢献しているのかが見えにくかったんです。お客様に喜んでいただけたことで、営業にとっても、ものづくりをしている人間にとっても、大きなモチベーションになりました」
営業の日報には「お客様に喜んでいただいた」という声が増え、その内容が社内で共有されるようになった。営業担当者だけでなく、製造部門にもその実感が伝わっていった。
こうしてJRCの営業は、製品を売る営業から、現場に入り、課題を見つけ、解決策を提案する営業へと変わっていった。
コンベヤが止まる前に、「不」を見つける
JRCが解決しようとしている「不」は、抽象的な理念にとどまらない。浜口氏が重視するのは、日本の基幹産業や作業現場に存在する具体的な不である。人手不足、効率の悪さ、安全面のリスク、ものづくりの不安定さ。そうした現場の不を少しでもなくしていくことが、JRCの役割だという。
特にコンベヤの現場では、搬送が止まることの影響は大きい。たとえ工場内に100本のベルトコンベヤが走っていても、そのうち1本が止まれば、生産全体が止まることもある。だからこそ、問題が起きてから対応するのではなく、止まる前に兆候を見つけることが重要になる。
JRCの営業は、顧客の事務所ではなく工場の現場を訪問する。軽い点検のように設備を見ながら、滞りが起こりそうな箇所や、不具合の兆候が出ている箇所を確認する。
「人の体にたとえると、血流の中で滞りが起こりそうなところや、血管が破裂しそうになっているところを見つけるようなものです」
緊急的に直すべき箇所にはすぐに改善を提案し、時間をかけて直すべき箇所には中長期の提案を行う。こうした現場起点の提案が、継続的な取引やリピート需要につながっている。
ただし、現場を見る力は一朝一夕に身につくものではない。ベテラン営業であれば、設備を見た瞬間に危険箇所や弱点を把握できるようになっているが、それを属人的な職人技で終わらせてしまっては、組織として広がらない。そこでJRCは、営業アプリのような仕組みも整備し、課題発見のヒントを共有している。
営業担当者だけでなく、代理店にもソリューションの初歩的な見方を共有する。JRCの営業が代理店と同行し、現場で一緒に提案活動を行うこともある。全国すべてのユーザーを自社営業だけで回ることは難しいからこそ、代理店網を生かしながら、課題解決の手法を広げている。
カンパニー制で高める意思決定のスピード
JRCは事業領域を広げる中で、2026年3月からカンパニー制を導入した。コンベヤ、環境エネルギー、ロボットSIといった各領域で専門性を高め、事業に近い人材が迅速に意思決定できる体制を目指している。