1927年創業、産業機械メーカーとして長い歴史を持つ太洋マシナリー株式会社。鋳造設備を中心に、環境機器や搬送機器など幅広い分野で事業を展開しながら、同社は一貫して「縁の下の力持ち企業」として顧客の生産基盤を支え続けてきた。
派手な広告やデジタル施策に依存せず、それでも選ばれ続ける理由はどこにあるのか。7代目代表の渡辺兼三氏に、営業・マーケティングの本質と、100年企業が描く未来を聞いた。
■Interviewee
太洋マシナリー株式会社 代表取締役 渡辺 兼三氏
社会課題から始まった事業──「機械化」で支えてきた産業の基盤
太洋マシナリーの原点は、鋳造業の現場にあった。創業当初、鋳造は高温の溶融金属を扱う危険な作業であり、人手に依存する工程も多かった。そうした環境を変えるため、「人がやっている仕事を機械化する」という思想から同社の事業は始まった。
「鋳造業の近代化を実現したいという思いが出発点でした。安全性と生産性を同時に高める、それが当社の役割だったと思います」
社会課題の解決と顧客の生産性向上。この2つが重なる領域に事業を置き続けてきたことが、100年企業としての土台を形成している。
「顧客が儲かること」がすべて──営業思想の中核にあるもの
同社の営業思想は非常にシンプルだ。それは「顧客が儲かることが第一」という考え方である。
「私たちはあくまで"縁の下の力持ち企業"です。お客様が当社の機械を使って生産性を上げ、利益を出していただく。それがメーカーとしての役割だと思っています」
その思想はビジネスモデルにも表れている。太洋マシナリーは機械を販売して終わりではなく、長期的なメンテナンスを前提とした関係構築を行う。導入後も機械が安定稼働し続けることが、顧客価値そのものだからだ。
「機械が止まれば、お客様の生産は止まる。だから"止まらないこと"が最も重要なんです」
この姿勢が、顧客との長期的な信頼関係を生み出している。
営業が起点となる"ソリューション型組織"──売れる構造の実態
効率化を求める昨今のトレンドとは異なり、同社の営業活動は現場の泥臭い関係構築が起点となる。デジタル施策に頼らず、営業が自ら足を運ぶことで生まれる信頼が、受注の起点になっている。
「ホームページからの問い合わせはほとんどありません。営業が現場を回り、関係を築く中で声をかけていただくケースが中心です」
特徴的なのは、営業が単なる販売担当ではなく、課題解決の起点になっている点だ。顧客の工場環境は「100社100様」であり、標準機をそのまま導入できるケースは少ない。営業は現場でニーズを拾い、設計と連携しながら最適な仕様を組み上げていく。
「こういうやり方ならできるのではないか、と営業と設計が一緒に考えていく。ソリューションに近い形ですね」
また、営業には重要なルールがある。それは"デメリットも必ず伝える"ことだ。
「できないことをできると伝えてしまうと、『100%できる』という勘違いが起こり、後になって『任せたのにできない』とお客様を困らせてしまいます。メリットとデメリットを両方ちゃんと伝えたうえで、それでも選んでいただけるようにする。それが結果として長く続く関係につながります」
短期的な受注よりも、長期的な信頼を優先する。この姿勢が、結果として選ばれ続ける理由となっている。
技術の横展開が生む新規事業──鋳造から環境・災害対応へ
同社のもう一つの特徴は、既存技術の"横展開"による事業拡張だ。
鋳造分野で培った「比重差選別技術」と、米国General Kinematics社との技術提携により磨き上げた「振動技術」は、環境分野や産業廃棄物処理へと応用されている。さらに阪神・淡路大震災を契機に、ゼネコンや建設会社が災害廃棄物の選別を必要とする場面が生まれ、同社の装置が認知されるようになった。その後も東日本大震災や広島土砂災害、熊本地震など、各地の災害復興現場でその装置は稼働し続けている。
「もともと持っていた技術を別の用途に活かした形です。震災対応の中で評価いただき、そこから広がっていきました」
このように、まったく新しい領域に飛び込むのではなく、自社の強みを起点に事業を派生させる。この積み重ねが現在の事業ポートフォリオを形づくっている。
人が辞めない組織のつくり方──育成と信頼のマネジメント
太洋マシナリーの組織には、もう一つ特筆すべき特徴がある。それは、新卒入社3年以内の離職者が過去10年間ゼロであることだ。