「お客様になんらかの案内を送る時、〇〇〇の名前で送らないでどうするんだよ」
これは、私が知人から聞いた、あるペットショップのオーナーの言葉です。
エンジニアの視点とオーナーの視点
もう20年以上前の話になります。私の知人であるエンジニアは、新店舗のオープンに向けた集客支援をしていました。その一環で、顧客管理システムの構築を任されていました。
彼は、クライアントであるオーナーの要望をヒアリングし、システムの仕様を固めていきました。しかし、オーナーは、知人に相談なく、POSレジの導入元にシステムの構築を依頼していました。
知人は「顧客管理なんて、どこで作っても同じようなものだろう」と、内心不満を感じていました。
当時のエンジニアからすれば、顧客情報とは、名前、連絡先、購入履歴、そして飼っているペットの種類といった、データベースに格納される単なるデータに過ぎませんでした。システムとして、必要な情報が漏れなく入力・処理・出力されれば十分だと考えていたのです。
欠けていた「ペットの名前」という視点
ところが、完成したシステムを見たオーナーは、顔をゆがめて開口一番こう言ったのです。「ペットの名前が取れてないよ」と。
知人は「ペットの種類は登録されているから問題ないはずでは?」と尋ねました。
するとオーナーは「お客様にとってペットは家族だ。お客様は、自分の名前でなく、愛する家族の名前で呼ばれることに喜びを感じる。お客様に心から喜んでもらいたいなら、ペットの名前で送らなきゃダメだ」と熱く語ったそうです。
顧客の「インサイト」を読み解く
この言葉に、知人は雷に打たれたような衝撃を受けたと言います。エンジニアとしての彼は、常に入力、処理、出力という機能的な視点でしか物事を捉えていませんでした。システムの完成度を測る尺度は、要望通りの機能が実装されているか、効率的に動いているか、ということでした。
しかし、オーナーの視点は全く違いました。システムを通じて、お客様の感情にどう寄り添うか、どうすればお客様に感動を与えられるかという、人間的な視点に立っていたのです。
マーケティングの本質とは
このエピソードは、エンジニアに限った話ではありません。どんなビジネスにおいても、顧客のインサイト、つまり「お客様の心の奥底にある、言葉にならない欲求」を深く理解することが、成功の鍵となります。
単にデータを集めるだけでなく、そのデータに隠されたお客様の感情や、お客様が本当に求めているものは何かを考えること。そして、その洞察を基に、心を動かすようなコミュニケーションを設計すること。
これこそが、これからの時代に求められるマーケティングであり、私たちが目指すべきビジネスの本質ではないでしょうか。
あなたのビジネスは、単なる「データ」でお客様を管理していませんか?それとも、お客様の「想い」に寄り添った関係を築けていますか?
著者プロフィール

安藤 芳樹
「セブンチャート仕事術」開発者。セブンチャートインストラクター、オフィスミラクス代表
広告代理店(ADK)に勤務しながらドラッカーを実践。「5つの質問」で企業トップとの事業の定義を合意しながら経営者視点で商談を進め顧客に認められる。40歳の頃、ビジネス観や人生観に普遍の基盤をもちたくドラッカーに目覚める。その知見体得のために試行錯誤してたどり着いたのが「セブンチャート仕事術」。その体得のためにやった反復訓練は30000ページのチャートを作るにいたり、今も増殖中。さぬきうどんブームの仕掛け人であり、映画「UDON」のトータス松本の役柄モデルでもある。立教大学卒業。2021年12月23日 初の著書「チャートで考えればうまくいく」を上梓。