震災の絶望が原点。万協製薬「営業ゼロ」の顧客掌握術

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阪神・淡路大震災によって、一瞬にして工場、顧客、そして組織のすべてを喪失した企業がある。三重県多気町に本社を置く外用剤(塗り薬・貼り薬)のOEM(受託製造)大手、万協製薬株式会社だ。同社は壊滅的な被害から奇跡的な再起を果たしただけでなく、「営業部を一切持たない」という製薬業界の常識を覆す独自のビジネスモデルを確立した。

現在、同社の取引先は約150社、製造実績は500品目規模にのぼり、年間約70品目もの新商品を市場に送り出している。なぜ同社は、1人の営業部員も雇うことなくこれほどの圧倒的なシェアと顧客ロイヤルティを獲得できたのか。その背景には、単なる人情論を排し、顧客の利益とインサイド(内情)を徹底的にコントロールする、冷徹かつ合理的な「ソリューション戦略」があった。本記事では、同社の復活劇の裏にある経営哲学と、営業構造の本質に迫る。

■Interviewee

万協製薬株式会社 代表取締役社長 松浦 信男 氏

「47秒」の崩壊と存在証明の執念

万協製薬の現在の経営戦略を紐解くうえで、1995年1月17日の阪神・淡路大震災は避けて通れない絶対的な分水嶺である。当時、同社は兵庫県神戸市長田区に本社工場を構え、地域に根差した事業を展開していた。しかし、都市直下型の大地震はわずか数十秒で同社の物理的基盤を完全に破壊した。

「47秒揺れただけで、世界が全部変わったんです」

松浦氏はその瞬間の恐ろしさをそう振り返る。32歳で二代目経営者としての道を歩み始めていた彼が直面したのは、建物の崩壊だけではなかった。真の絶望は、その後に訪れた「組織の瓦解」だった。激震のショックから立ち直れない先代社長(実父)は会社への出社を拒むようになり、長年共に働いてきた社員たちも、行く末への不安から退職金の支払いを求めて次々と去っていった。

「会社組織が崩壊していくのを、何もできずに見ているしかなかった」

昨日まで強固に見えた組織が、文字通り音を立てて崩れていくプロセスを、松浦氏はただ呆然と見つめることしかできなかったという。この時に味わった悔しさ、苦しさ、そして自らの無力さに対する情けなさは、彼の心に深く激しい感情を植え付けた。

「悔しさ、苦しさ、情けなさ。世の中にある『負の感情』が全部押し寄せてきた感じでした。だからこそ、世界中の人間が万協製薬を必要とするまで、僕の復讐は終わらない。あの時、そう心に誓ったんです」

社会や業界に対する「存在証明の執念」とも言える強烈な動機が、同社の異端な戦略を生み出す契機となる。「今度震災が起きた時、『万協製薬がないと困る』と言われる会社にしたかった」と語る松浦氏。震災の翌年、同社は縁もゆかりもない三重県多気町の廃工場を買い取り、わずか3人のスタッフとともにゼロからの再スタートを切った。

下請けを極める逆転の発想と「受託のループ」

三重での再起にあたり、万協製薬には自社ブランドも、かつての得意先も残されていなかった。事業停止の期間中、同社の製品はすべて競合他社に置き換えられており、市場における居場所は完全に消失していたのである。

「半年後には倒産する。だから、どこでもいいから仕事をくださいって頭を下げたんです」

資金が底をつく極限状態のなかで、同社が生き残るために選択したのが、他社ブランドの製品を製造するOEM事業だった。現在、同社は自らの事業を「メディカルスキンケアアウトソーシングソリューションサービス」と定義しているが、その始まりは生きるための泥臭い下請け仕事に過ぎなかった。しかし、松浦氏は単に言われた通りにモノを作る従来型の下請けに甘んじるつもりはなかった。医薬品市場全体においてわずか7%程度しか存在しない「外用剤(クリーム、軟膏、ローション等)」というニッチな領域に、すべての経営資源を集中させる決断を下す。

「医薬品全体の中で、外用剤は7%程度しかないニッチ領域です。でも、そこに徹底的に集中した」

大手が参入しにくいニッチ領域で「受託」を徹底的に繰り返す。これこそが、同社の知財と技術力を爆発的に高めるレバーとなった。松浦氏の戦略の妙は、受託構造を「ノウハウの高速蓄積システム」へと転換した点にある。一企業が自社ブランドのみを展開する場合、開発の知見は自社の予算とスピードに限定される。しかし、多様なクライアントの案件を同時に受託すれば状況は一変する。

「A社で学んだことをB社で使う。B社で得た知見をC社で活かす。受託を繰り返すことで、最前線のノウハウが蓄積されていったんです」

他社の案件で得られた技術的知見や法的クリアの方法を、守秘義務の範囲を超えない形で抽象化し、別の製品開発へと応用する。数多くの他社資本とアイデアを活用しながら、最前線の開発ノウハウを自社内に高速で還流させていくのだ。製造に必要な設備投資は自社で実施するため、製造プロセスの主導権と技術力は確実に社内に残る。

「仕事を受けること自体が技術開発だった」

その積み重ねこそが、年間約70品目という驚異的な新製品を生み出す、現在の万協製薬の競争力となっている。

営業部ゼロを実現する技術者の圧倒的スピード

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