顧客にとって「なくてはならない存在」であり続けるには、何を変え、何を守るべきなのか。
最終消費者の目に触れる機会は少ない中間素材だが、供給が止まれば顧客の事業を揺るがし、過去からの技術の蓄積が更に進化すれば新たな産業の可能性を広げる。ソマール株式会社は、そうした見えにくい価値を担いながら、商社とメーカーの機能を併せ持つ企業として事業を広げてきた。
商社としての仕入販売への依存から、技術力と海外展開を軸にした企業へ。現・代表取締役社長の曽谷太氏は、どのような危機感から変革を進め、次世代のソマールをどこへ導こうとしているのか。その歩みと展望を聞いた。
■Interviewee
ソマール株式会社 代表取締役社長 曽谷 太氏
ソマールが築いた、技術で選ばれる営業のかたち
高機能材料、環境材料、食品材料など幅広い素材を扱うソマール。電気自動車の部品に必須な絶縁材料や紙の品質を支える製紙用化学品など、同社の扱う製品は生活者の目に直接触れにくいが、産業のさまざまな場面を根底から支えている。
最大の特徴は、自社で技術を磨き製品を製造する「メーカー機能」と、多様な素材を調達し提供する「商社機能」を併せ持つ点だ。顧客の製品開発や安定供給の一翼を担い、長年信頼を積み重ねてきた。
だが、現社長の曽谷氏が入社した当時、同社は売上の多くを仕入販売に依存していた。「売上規模はあっても粗利は厳しく、海外拠点もない。自社製品を海外展開しなければ主要顧客との関係維持も難しい。このままだと経営的にしんどくなると分かっていた」と曽谷氏は振り返る。
商社としての仕入販売への依存から、自社技術を軸にした事業構造へ
曽谷氏がまず着手したのは、海外展開と技術強化だった。自ら中国の工場候補地を回り、香港を起点に事業展開を模索。「役員会では反対の声が大半でしたが、将来を見据えて海外拠点の設立を押し切りました。同時に、従来の仕入販売(商社ビジネス)に依存する構造から脱却するため、自社製品の競争力を高める技術力の強化に徹底して取り組みました」
当時、営業は新規開拓に十分向き合えておらず、技術部門の人員も限られていた。しかし、仕入れ先の撤退や縮小が進む中、日本市場の商権だけでは成長余地がない。そこで曽谷氏は自らタイに3年間駐在するなど、海外展開の最前線に立った。
海外拠点の立ち上げは、決してスマートなものではなかった。インドをはじめとする新興国でのビジネスは衛生環境も過酷であり、出張のたびに食あたりで現地の病院に駆け込むなど、文字通り「身体を張って」開拓を進める泥臭い日々が続いたという。曽谷氏はそうした苦労を自ら重ねながら、海外で稼ぐための強固な基盤を少しずつ整えていったのである。
また、当時は会社の認知度が特定業界に限られていたため、キャラクターやノベルティを通じたブランディングにも着手。技術強化、海外進出、会社を知ってもらう工夫。この三つが現在のソマールの土台となっている。
“なくてはならない存在”になるために
ソマールは、顧客にとって「なくてはならない存在」になることを目指している。自動車関連部品や半導体分野など、同社の材料は顧客製品の奥深くに入り込む。
「多くの自動車メーカーや部品メーカーにとって代替されない材料になっている」と語る曽谷氏。顧客の製品が市場で広がれば、同社の供給責任の重要度も増す。「だからこそ供給撤退は絶対にしないのが大前提」と言い切る。
興味深いのは、「選択と集中」の名のもとに安易に事業を切り離してこなかった点だ。工場や社員間のつながりがあり、一部事業の撤退が組織全体のモチベーションに響くからだ。
例えば製紙分野では、紙の生産量が減少する中、製紙会社自身も電子部材や自動車など新分野への参入を模索している。ソマールも顧客と協調し、製紙向け技術を水処理や環境材料など他分野へ応用する取り組みを進めている。撤退せず共に用途を広げる姿勢が、「なくてはならない存在」をより強固にしている。
技術と営業が、顧客の隠れたニーズを形にする
同社の強みを支えるのが、技術と営業の連携だ。営業が顧客の課題を聞き出し、技術がそれを形にする。必要に応じて両者が顧客先へ同行する。
「営業はお客さんと話して課題を聞いてくる。技術者には話すのが苦手な人もいますが、開発には優れている。そういう人は開発に特化させた方がいい」
分業の発想は、業界ごとの営業体制にも及ぶ。曽谷氏は、扱う業界の性質に応じて営業を独立・特化させている。
「お客さんのタイプも営業スタイルも業界ごとに全く違う。自動車と電子は近いので同じ体制で見ていますが、製紙や食品はまったく別です。それぞれに特化させないと、ひとりの担当がすべてを見てもうまくいかない」
性質の大きく異なる業界に同時に向き合う、同社ならではの営業接点の設計思想である。
このようにそれぞれの強みを活かす一方で、営業にも一定の技術理解は欠かせない。その育成において曽谷氏が重視するのは現場だ。資料や座学だけではなく、工場で実物を見て顧客と話すことが最も早い学びになるという。
「活字だけでは正直よく分からない。実際に工場に入って見たり、お客さんと話すことが一番大事です」
この現場主義が、表面化していないニーズを的確に捉え、形にする力となっている。
日報を読み、ボヤのうちに消す
成長には、常に壁がついてまわる。「10億を超えたときの壁、20億の壁、ようやく30億に来て——規模が上がるほど、次の壁が見えてくる。人を増やすと同時に、社員も成長していかないとついてこられない」と曽谷氏は語る。だからこそ、現場の変化を経営者自身が把握することにこだわる。