シャボン玉石けんが貫く理念経営

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1910年、現在の北九州市若松区で創業したシャボン玉石けん株式会社。無添加石けんのメーカーとして広く知られる同社だが、その歩みは決して順風満帆ではなかった。

高度経済成長期、合成洗剤の普及によって大きく成長した同社は、1974年、売上の柱だった合成洗剤の販売をやめ、全ての製造・販売を無添加石けんに切り替えた。背景にあったのは、当時の社長である森田光德氏自身の肌荒れと、無添加石けんを使ったことで得た実感だった。

しかし月商は一時、約8,000万円から78万円へ。社員も約100人から5人にまで減少し、その後17年間にわたって赤字が続いた。それでも同社は、信念を曲げなかった。

現在、同社が掲げる企業理念は『健康な体ときれいな水を守る。』だ。この言葉は単なるスローガンではなく、商品開発、営業、マーケティング、組織づくりの判断軸として、いまも脈々と受け継がれている。

今回は、代表取締役社長の森田隼人氏に、同社が理念を貫きながら市場を切り拓いてきた歩み、顧客との関係づくり、そしてこれからの事業展望について話を聞いた。

■Interviewee

シャボン玉石けん株式会社 代表取締役社長 森田 隼人 氏

合成洗剤で成長した会社が、なぜ無添加石けんへ転換したのか

シャボン玉石けんの始まりは、1910年に現社長・森田隼人氏の祖父が創業した「森田範次郎商店」にさかのぼる。当時の北九州・若松は石炭の積み出し港として栄え、石炭を扱う人々の汚れを落とす石けんの需要は高く、卸売商として基盤を築いた。

戦後、日本が高度経済成長期に入ると、米国から合成洗剤が広まり始めた。洗濯機が各家庭に普及し始めた1960年頃、森田氏の父である光德氏も合成洗剤へと事業の軸を移し、売上は右肩上がりに伸びた。

ところがその頃から光德氏は肌荒れに悩むようになる。そんな折、当時取引のあった国鉄から「機関車を洗うための無添加の粉石けんを作ってほしい」と依頼を受けた。合成洗剤では車体に錆が出やすいという理由だった。

試行錯誤の末に開発した無添加の石けんを試しに自宅で使ってみると長年悩んでいた肌の状態に変化を感じたが、使い終わって自社の合成洗剤に戻すと、その変化は元に戻ってしまったという。

そのとき初めて、自分の肌荒れの原因が自社商品にあると気づいた。会社は合成洗剤で儲かっていた。しかし「体に悪いと分かったものを売るわけにはいかない」。その信念から、1974年、同社は全ての製造・販売を無添加石けんに切り替えた。

月商8,000万円から78万円へ。17年間の赤字を越えて

1970年代当時、環境問題や安心・安全への意識は現在ほど一般的ではなかった。小売店のバイヤーからは「今さら昔の石けんは売れない」と言われ、転換翌月の月商は約8,000万円から78万円へ落ち込んだ。社員も100人から最少5人にまで減った。

それでも光德氏は無添加石けんをやめなかった。3年、5年辛抱すれば黒字になると思っていたものの、赤字は17年間続いた。広告を打つ余裕もなく、金融機関からの視線も厳しくなっていく。

転機となったのは、1991年に光德氏自ら執筆した『自然流「せっけん」読本』だった。石けんと合成洗剤の違いを伝えるこの本が異例のベストセラーとなり、多くの消費者から注文が入るようになった。環境意識の高まりも追い風となり、同社は1992年、無添加石けんへの転換から18年目にして初めて黒字化を果たした。

森田氏は、「この歴史そのものがブランドの根幹であり強み」だと語る。

顧客の声を全社員で見る。理念を現場に根づかせる仕組み

同社の商品開発において大切にしていることは明確だ。肌トラブルに悩む人にも安心して使ってもらえること、そして環境にもやさしいこと。企業理念に合致しているかを常に見極めている。

自社で通信販売を行っていることもあり、消費者からの声が直接届く。ときには「この商品に出会えてよかった。本当にありがとう」といった、感謝の言葉をいただくこともあるという。また、お客様の声を基に改善・開発された商品も多い。ペット用シャンプーや義歯洗浄剤なども、まさにお客様の要望をきっかけに誕生したものだ。

特徴的なのは、顧客の声を全社員で共有していることだ。個人情報を除いて文字化し、嬉しい声も品質向上への貴重なご意見も全員が見られるようにしている。製造現場の社員にも「その先にいるお客様」を感じてほしいという思いが背景にある。17年間の赤字を支えたのも、顧客から届く声だった。

伝える難しさと、考えるきっかけをつくるマーケティング

無添加石けんの価値を正しく伝えることは、簡単ではない。「成分や製法など、何が違うのかを一言では伝えにくい」と森田氏は話す。

だからこそ同社は、単に「肌にやさしい」と機能性を訴えるだけではなく、これまでの独自の取り組みを通じて、お客様自身に問いを投げかけるような情報発信を重視してきた。たとえば、商品のパッケージ裏の成分表示を見ることを促す広告など、お客様に本質的な価値に気付いてもらうためのアプローチをとっている。

森田氏は、こうした発信の目的は「ブランドの本質を知っていただくこと」にあると語る。個別の商品スペックの訴求ではなく、会社として何を信じ、何を守ろうとしているのかを背景から伝えることで、結果としてお客様に「こういう会社が作っているから安心なのだ」と理解してもらう。シャボン玉石けんは、個別ブランドよりも会社全体のブランドへの信頼で選ばれている側面が強いからこそ、その姿勢が重要になるのだ。

売り場、工場見学、SNS。多様な接点で長期的な関係を築く

店頭、Webサイト、SNS、テレビ、新聞、工場見学、イベント。同社は一貫した企業理念のメッセージを保ちながらもそれぞれの接点の役割を意識しながら情報発信を行っている。

工場見学は年間約1万5千人が訪れ、約6割は小中学生だという。将来、子どもが生まれた時や肌荒れに悩んだ時に思い出してもらえるかもしれない。そうした長期的な視点で、工場見学を大切にしている。

SNSにも積極的だ。InstagramやXに加え、TikTokでは社内の若手社員が中心となって「ぜとラボ」というチームを立ち上げ、縦型ショート動画にも取り組んでいる。その他、縦型ショートドラマによる香害啓発、ファン向けコミュニティサイト、ファンミーティングも進めている。口コミで広がってきた同社の強みを、現代の接点づくりのなかで再設計しているのだ。

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