顧客から要求を受けてから作るのではなく、その先に必要になるものを考える。そのために欠かせないものとして、株式会社タカトリの増田誠社長が繰り返し口にしたのが「情報力」だった。
繊維機械から半導体機器へ進出し、その後も液晶、新素材加工、医療機器などへ事業領域を広げてきた同社。市場や技術が変化するなか、顧客、セールスパートナー、技術者、研究機関などとの接点から情報を取り込み、次の製品へつなげてきた。
その情報をどう集め、モノづくりへ落とし込んでいるのか。そして、2016年の社長就任以降進めてきた「第2創成期」の先に何を描くのか。増田氏に聞いた。
■Interviewee
株式会社タカトリ 代表取締役社長 増田誠氏
繊維機械だけではない「次の柱」を求めて
タカトリの事業の歩みを振り返ると、現在につながる一つの転機が1980年にある。
当時、同社の事業を支えていたのは、パンティーストッキング関連の繊維機械だった。しかし増田氏によれば、特許の切れ目や市場環境の変化が重なり、この事業だけを経営の基軸としていくことへの不安が生まれていた。
「30年間は頑張ってこられたけれど、これ以上これを経営の基軸にしていくには心細い。新たな経営の柱を考えよう、という掛け声のなかで、1980年に半導体・エレクトロニクス分野に入りました」
きっかけの一つとなったのが、奈良県内に複数の工場を構えていたシャープとのつながりだった。パンティーストッキングのような細く柔らかな素材を扱ってきた技術を、シリコンウェーハにも生かせるのではないか。そう考え、指導を受けながら半導体分野へ踏み出したという。
その後、顧客側で液晶事業が広がるなか、タカトリも液晶関連へ領域を広げていった。さらに、新素材加工、医療機器、バッテリー関連へと接点を増やしてきた。
増田氏が語るのは、あらかじめ一つの完成した成長戦略があったという話ではない。既存事業を続けながら、社会や技術がどちらへ動くのかを見て、新たな経営の柱を探してきた歩みだ。
「風が来る前」に準備する
新しい市場へ向かうとき、増田氏が重視するのが、必要とされる前に情報をつかむことだ。
象徴的な例の一つが、サファイアの加工だった。LEDの普及が進むなか、その基板に使われる人工サファイアの加工には難しさがあると考え、加工技術の開発を進めた。2012年には、その取り組みに関連して第4回ものづくり日本大賞の特別賞を受賞した。
「この素材が必要になってくるだろう。この素材が出たときには、加工方法で困るだろう。そう考えて、風が来る前に準備をしていました」
同じ考え方は、SiC(シリコンカーバイド)にもつながった。カーボンニュートラルやEV化の流れを見ながら、SiCの加工にもサファイアとは異なる難しさがあると捉え、専用の加工装置を開発してきた。
増田氏は、自社が目指す開発のあり方を「転ばぬ先の杖」と表現する。
顧客から具体的な要求が来るのを待つだけではない。その先にどのような材料やデバイスが出てくるのか、そこでどのような加工上の課題が生まれるのかを考える。その起点となるのが情報だ。
増田氏は、この流れを「情報力」「解析力」「商品力」と整理する。
「いかに情報を取り込むか。そこが最大のポイントです。情報が取れなければ、何もできません」
情報を集め、整理し、次の商品企画へつなげる。その循環自体をさらに強くしていくことが、現在のタカトリにとってのテーマになっている。
営業だけが「営業」ではない
では、その情報をどこから得るのか。
増田氏は、顧客だけでなく、国内外の代理店や研究機関、大学、金融機関など、幅広い接点を挙げる。必要な技術を自社だけで補えない場合には、そうしたネットワークから新たなパートナーを探すこともある。
過去のSiC加工でも、装置だけですべてを完結させたわけではなかった。加工に使う液剤の技術を持つ企業との関係を生かし、装置と組み合わせることで加工を実現したという。増田氏は、30年前から続く関係が現在の事業につながった例を挙げながら、今つくる新たな人脈が、将来の事業につながる可能性にも目を向ける。
営業活動についても、その捉え方は広い。
「営業というのは、ネクタイを締めた営業マンだけじゃなくて、技術も、設計も、製造も、すべて営業だと捉えています」
特に半導体分野では、営業担当者だけでは入りにくい顧客の現場に、エンジニアや現地のセールスパートナーが入ることもある。そこで見聞きした内容を、営業や他部門と共有する。
出張前には何を確認するのかを整理し、出張後には新たに得られた情報を残す。セールスパートナーとも情報を交わしながら、次にどこを見るべきかを考えていく。
新規顧客との接点では、Webも機能している。特に海外では、加工や貼り付けなどに関するキーワードからタカトリを見つけ、問い合わせにつながるケースがあるという。その後は各国の代理店につなぎ、商談を進めていく。
展示会でも、完成した製品を一方的に紹介するだけではない。バッテリー関連の展示会では、自社の8つのコア技術を開示し、「この技術で自社の課題を解決できないか」と来場者側から声をかけてもらう方法を取った。
自社が持つ技術を見せ、顧客側から課題を持ち込んでもらう。その相談自体が、新たな情報の入口になる。