モーターは価格で選ばれる商材――。
そう言われる業界で、株式会社FEWは「モーターを売らない営業」を掲げている。同社が磨いてきたのは、大量生産でも低価格でもない。「一個づくり品質」という思想だ。
代表取締役・仲下正一氏への取材をもとに、価格競争に巻き込まれず選ばれ続ける営業の構造と、その先に見据える進化をひも解く。
継続が生んだポジション
株式会社FEWの創業は1920年。大阪で個人商店として始まり、1953年には安川電機製作所(現・株式会社安川電機)の出資を受けて法人化した。
長年にわたり安川電機を卒業した人物が経営を担ってきたが、現代表取締役の仲下正一氏は創業家出身ではなく、外部から経営を引き継いだ立場である。
仲下氏がFEWに関わることになったのは、前職で機械メーカーの経営に携わっていた頃、仕入先として同社と取引があったことがきっかけだった。前代表との交流の中で世代交代の話が持ち上がり、経営を引き継ぐことになる。
同社の事業はモーターの設計・製造だ。ただし特徴は、大量生産ではなく「1個から作る」モデルを長年続けてきた点にある。規模拡大や事業多角化を急ぐのではなく、特定の用途に合わせたモーターを設計し、必要な数量だけを製造する。
このスタイルを続けた結果、他社が手掛けなくなった領域に残り続ける形になった。
モーターは一般的には価格競争の激しい商材だ。しかし、プラント設備や特殊用途では「この1台がなければ設備が動かない」というケースも多い。
すでに生産終了したモーターを使い続けている設備では、「1個だけでも作ってほしい」という相談が寄せられることがある。
大手メーカーが撤退した領域でも、その需要に応え続けてきた結果として、FEWは「少量・特注モーター」という独自のポジションを築いてきた。
「一個づくり品質」という言語化
転機は2022年頃のことだった。仲下氏は、自社の事業の本質を「一個づくり品質」という言葉で定義し、社内外に打ち出し始めた。
この言葉自体は、外部から招へいした人との対話の中で出てきたものを採用したものだが、そこには仲下氏が代表就任以来かけてきた時間と分析の積み重ねがある。
「一個づくり品質」が意味するのは、大量生産ラインを組んで効率化する方向とは対極の姿勢だ。顧客ごとに仕様をすり合わせ、設計から関与し、必要な数量だけを製造する。
中小規模のモーター企業の中で、設計機能をしっかり持ち、いちから図面を起こせる体制は決して多くない。
「いわゆる言われた通りに作るだけの下請けの会社が多い。設計はお客様側にあって、ものづくりだけ手伝いますというところが大半」と仲下氏は言う。
いちから図面を書いて仕様に合わせていく機能を持つ中小は、あまりない——それが業界の実情だ。
「一個づくり品質」を言語化したことで、社内外の理解は進んだ。
仲下氏は「商売が急に増えたわけではない」と率直に語るが、取引先や関係者から「何をするかがはっきりした」という評価を受けるようになった。
これは、思想を言語化することが営業の土台を形成し始めたことを示している。
大手が撤退した一個づくりの領域に残り続けた結果としての独自性が、ようやく言葉として可視化された瞬間でもある。
モーターはあくまで"ツール"
仲下氏の営業観の根底には、銀行員時代の経験がある。
大学卒業後、当時三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入行し、15年勤務した同氏は、新規営業の最前線に立ち続けた。金融機関には目に見える商品がない。あるのは、顧客の事業を理解し、役に立つことだけだ。
「とにかく目の前の社長のお役に立つことだけを考えて、結果、いろいろやってくれたから取引しなあかんね、と言ってもらうことが水に合っていた」と振り返る。
この感覚が、モーターメーカーの代表となった今も、営業の哲学として生きている。
「モーターはツールに過ぎない。お客様の事業を何かお手伝いするためのものでしかない」
AGV(無人搬送車)や農業機械、各種装置において、モーターは一部品である。
顧客が本当に直面している課題は、制御効率かもしれないし、バッテリーコストかもしれない。
たとえばAGVや電動カートを製造する企業にとって、コスト構造の大きな悩みはモーターとバッテリー、そして制御の3点だという。
「僕らはモーターのことしか知りません、では意味がない。バッテリーについていい情報を聞いたから紹介しましょうか、という話でも全然いいんです」
モーター単体の話に閉じず、必要に応じて他の企業を紹介することもいとわない。仕様書通りに見積もるだけの「御用聞き営業」からの脱却。それが仲下氏の目指す姿だ。
現在の営業部員は4名だが、「言われた仕様にしか向き合わない癖が抜けない」と率直に評する。
だからこそ仲下氏自身が顧客訪問に同行し、経営層と直接向き合いながら、モーターがその会社の事業においてどういう位置づけにあるのかを掴もうとしている。
「社内の全体方針でも伝えた。僕らはモーター屋じゃなくて、課題解決屋なんだと」。
探される会社であるということ
FEWは特定市場に特化して攻めているわけではない。
大規模なSEO施策を展開しているわけでもない。
それでも、原子力や宇宙、深海などの過酷な環境で使用される特殊モーター含め、特殊な事案の開発でモーターを必要とする技術者が、検索を重ねた末にFEWへたどり着くケースがあるという。
「そういう方は技術者が多くて、いろいろなモーター会社を調べていくうちに、うちにたどり着いてくれる」。
取材では、深海での使用を想定したモーターの相談事例にも言及があった。
水深6000メートルの深海の高水圧下で動かすモーターで必要数は数台だけ、という案件だ。
設計難易度は極めて高いが、求められる数量は少ない。こうした案件は価格比較の単純な土俵には乗りにくく、むしろ「実績があるから頼める」という信頼が発注を動かす。
「モーターは重要な部品なので、作ったことがあるという実績は、お客さんには安心材料になる」。
継続受注の構造も同社の特徴を表している。
工場の設備に取り付けたモーターであれば、数年後の設備更新で再び声がかかる。装置に組み込む直流モーター(バッテリー駆動型)であれば、装置の出荷と連動して継続的な発注が生まれる。
新規顧客よりもリピーターが多い構造は、「価格で選ばれない」ポジションを象徴している。
モーター単体から制御領域へ
仲下氏は、モーター単体の競争力には限界があると見る。
「単純にモーターだけ売ると、やはりお客さんも安くして欲しいということになる」。
そこで注力するのが、制御の分野だ。モーターを動かすコントローラやユニット全体の制御分野に対応することで、エンジンから電動機に置き換わる装置などの領域で付加価値を高めようと考える。
現時点ではドライバーの内製は行っていないが、「社内でそういったノウハウを持つ人材への投資はやっていく」と語る。
ロボットやEV、ドローンといったトッププレイヤーがしのぎを削る領域には参入しない。あくまでニッチな用途、端的に言えば「大手が相手にしないが、確実に必要とされる」領域での最適化を深める。それがFEWの方向性だ。
同時に、生産技術の改善も進めている。熟練した職人しかできなかった工程を解析し、なぜ難しいのかという本質に向き合いながら、ジグや簡易的な自動機を自社で開発・導入している。
「今まで1時間かかっていた作業を、誰がやっても素早くできるようにする。生産技術力がものすごく大事だと思っている」。
熟練依存から脱却することで、少量多品種でも持続可能な製造体制を構築しようとしている。改善のヒントは、現場での雑談から生まれることが多い。
「今何やってるの?」という問いかけから「これが大変なんですよ」という声が出てきて、そこから改善の糸口をつかむというのが仲下氏のスタイルだ。
AIとDXは"思考力"が前提
DXやAIについても、単なるツール導入ではないと仲下氏は言う。書類のクラウド一元化など基盤整備は進めつつも、より本質的な課題として人材の思考力を挙げる。