「これ、作れますか?」
株式会社SANMATSUには、そんな相談が持ち込まれる。具体的な金属部品の加工依頼もあれば、「こんなものがあったらいい」という構想段階の話もある。設計から加工、組立まで、顧客のものづくりを幅広く支える「小ロット製造代行」。その原型が形づくられたのは、今から約30年前の1997年だった。
現在の事業モデルは、どのような考えから生まれたのか。新たな顧客との接点をどうつくり、多品種少量という複雑なものづくりをどう支えているのか。そして、これからどの市場へ挑もうとしているのか。代表取締役社長の田名部徹朗氏に、SANMATSUの歩みと現在地、これからの展望を聞いた。
■Interviewee
株式会社SANMATSU 代表取締役社長 田名部徹朗氏
原点に立ち返って見つけた「小ロット製造代行」
SANMATSUの現在の事業モデルを形づくる大きな転機は、1997年にあった。それまで特別に定めていなかった中期経営計画を策定し、自社のあるべき姿や長期的なビジョンまで含めて、会社の方向性を見直したのだ。
当時、事業として伸びていたのは金属加工だった。機械装置をつくるために内製化していた金属加工が、それ自体でビジネスとして成長していった。しかし、新しい設備によって得ていた競争力も、他社が同様の設備を持つようになれば差別化が難しくなる。
そこでSANMATSUは、自社の歴史を振り返るとともに、顧客や社員などに話を聞き、改めて自社の強みを分析した。
そこで見えてきたのが、部品加工だけではない価値だった。装置を組み上げた状態で納品する、顧客に代わって設計を担う。そうした対応が「SANMATSUならやってくれる」と評価されていた。
さらに振り返ると、創業期に手がけていたのも、顧客の自社工場の代わりとなり、設計を含めて生産を担う仕事だった。
「改めて原点に立ち返りながら、そういったところの事業を強化していくことが、我々の差別化になる」
新しい事業モデルをゼロから生み出したというより、自社がもともと持っていた役割と、顧客から求められている価値を捉え直した。その先に「製造代行」というコンセプトが生まれ、さらに「1個からでも作ります」という意味を込めて「小ロット」が加わった。
「1個から」の先に、顧客の開発段階がある
小ロットを掲げた背景には、顧客や生産品目の変化もあった。
顧客の業種が分散し、一度に生産する数量が徐々に少なくなる一方、SANMATSUは顧客ニーズのより初期段階から関わろうとしていた。
企画や試作、開発の段階では、最初から大量の製品をつくるわけではない。「まず1個、2個作ってほしい」という依頼が中心になる。設計から関わり、開発の上流へ入ろうとすれば、少量の依頼を受けられる生産体制が必要になる。
特定業種への依存を避けることも狙いの一つだった。複数の分野の顧客と取引することで、一つの業界の状況だけに会社全体が左右されにくい構成を目指した。
「特にこの業種だから、ということではありません。将来性を見ながら、開発のところから関わる。『図面もこちらで書きましょうか』という提案がお客様にとって助かるということで、評価いただくことが多かったのです」
SANMATSUに持ち込まれる相談の幅は広い。完成した図面を前提とする部品加工の相談だけでなく、「こんな装置をつくれないか」と、まだ構想しかない段階から声がかかることもある。
新しい取り組みを判断するときも、田名部氏がまず見るのは顧客からの要望だ。市場性や新規性、自社の技術で対応できる可能性も考えながら、「できないからやらない」のではなく、やれる可能性があるかを真摯に考える。
顧客から持ち込まれる新しいニーズへの挑戦が、SANMATSU自身の技術を進歩させる機会にもなってきた。
展示会、Web、紹介。顧客との接点を複線化する
現在、新しい顧客との接点は一つではない。Webからの問い合わせ、展示会、既存顧客やベンチャーキャピタルからの紹介に加え、産学連携による大学との関係から相談につながるケースもある。
展示会も、単に来場者から問い合わせを獲得する場として捉えてはいない。
「何でもかんでも出展しているわけではなくて、我々のターゲットになるようなお客様がいる展示会を狙っています」
来場者への営業はもちろん、同じ展示会に出展している企業も潜在顧客になり得る。そこで接点をつくり、Webサイトやメールマガジンなども活用しながら、マーケティングオートメーションによる顧客獲得にも取り組んでいる。
商談が進めば、できるだけ工場を見てもらう。設計メンバーの技量や設備、生産体制を実際に示し、「ここなら任せられる」と感じてもらうためだ。顧客自身もまだ完成形を描けていない場合には、過去の類似事例を紹介しながら、必要な仕様や予算のイメージを一緒に具体化していく。
長年にわたり多様なものづくりを手がけてきたことが、次の提案材料にもなる。
一方で、新規顧客の獲得に課題がないわけではない。
田名部氏は、Webから来る顧客について、問い合わせ数そのものというより、試作の先で案件が「大きく花開く」ケースが以前より少なくなった感覚があると語る。
SANMATSUの1ロット当たりの平均は約11.8個で、そのうち約7割は1個の製作だ。しかし同社が期待するのは、小さな試作だけを繰り返すことではない。開発段階から関わった仕事が、将来的な量産案件へと育っていく可能性だ。
「種をまくお手伝いはするのですが、まいているばかりだったり、そこで終わってしまったりすることもある」
顧客との接点を増やすだけではなく、その先でどのような案件を育てていくか。SANMATSUの営業・マーケティングもまた、変化の途上にある。
多品種少量を支える「長期熟成型DX」
小ロット、多品種、開発段階からの対応を強めれば、当然、扱う仕事は複雑になる。
その複雑さを支えてきたのが、独自の統合生産管理システム「SINS」だ。
田名部氏はこれを「長期熟成型DX」と呼ぶ。近年になってDXを始めたのではなく、小ロット製造代行という方向性を定めた1997年から、システムの構築に取り組んできたからだ。
当時は1日当たり10〜20件程度だった注文が、現在は1日約600件にまで増えている。人の記憶や経験だけで一つひとつの工程を管理することは難しい。
現在は月に約12万点を製作し、その約7割が1個作り。一つの製品がいくらでできたのか、各工程を誰が担当し、どれだけの時間をかけたのかを一品ごとに管理する。製造工程を動画で記録するほか、CO2排出量まで把握でき、顧客からの要望に応じた情報提供にも対応している。
もともと職人の仕事には、経験や感覚に依存し、作業時間や難易度を客観的に把握しにくい部分もあった。そこでSANMATSUでは、一つひとつの作業実績を記録し、技術や判断をできる限り数値化・可視化していった。
しかし、データが蓄積されたからといって、すべてが自動化できたわけではない。
現在、金属加工の営業にとって大きな負担になっているのが見積もりだ。小さなブラケット一つでも、工程を分解し、「この加工ならどの程度の時間がかかるのか」を判断する必要がある。加工ノウハウを持つ人でなければ難しい仕事だ。
田名部氏によれば、金属加工の営業では業務時間の約6割を見積もりに費やし、顧客と直接コンタクトする時間は2割にも満たないのが実情だ。
顧客との接点を増やせば、見積もり依頼も増える。見積もりに時間を取られれば、顧客と向き合う時間が減る。長年、多品種少量の仕組み化を進めてきたSANMATSUにとっても、見積もりの効率化は現在進行形の課題となっている。
FA領域には別の難しさもある。近年は「ロボットを入れたいが、仕様書までは書けないのでアイデアから提案してほしい」という相談も増えている。受注前から装置の構想まで考えなければ見積もれない一方、提案したからといって必ず受注できるとは限らない。いわゆる「アイデアコンペ」のような状況が生まれており、受注前の提案に設計側の工数がかかることも、課題の一つになっている。顧客の上流へ入るほど、営業もまた「売る」だけでは成立しなくなっている。
「三松大学」は人材教育であり、顧客へのPRでもある
多品種少量のものづくりを続けるには、システムだけでなく、それを担う人も育て続けなければならない。