プラスチック成形は、品質・コスト・納期の複数軸で常に比較・検討される世界である。その中で価格ではなく技術と提案価値で選ばれ続けるには、営業と技術をどう組み立てるかが問われる。1936年創業、東証スタンダードに上場する天昇電気工業株式会社は、自動車を主力としながら非自動車・自社製品への拡張を進める老舗の合成樹脂成形メーカーだ。同社がいま営業現場で何を変えているのか。代表取締役社長・藤本健介氏に聞いた。
■Interviewee
天昇電気工業株式会社 代表取締役社長 藤本 健介氏
「強みの再定義」で、価格競争の土俵から降りる
営業改革の起点は、製品でも価格でもなく「強みの言語化」に置かれた。営業の提案プロセスで最初に徹底したのは、天昇電気の強みを一言で打ち出すことである。会社案内に情報を並べても、何が強いのかが伝わらなければ、価格と納期だけで比較される土俵に引き込まれてしまう。
「強みを、もう一回はっきり出すんです」
藤本氏が掲げる強みは大きく二つに整理される。一つは、企画・設計から金型製作、成形、加工、検査、出荷までを社内で完結させるトータルエンジニアリングである。もう一つは射出成形を軸とした技術力で、軽量化や、外観品質を左右するウェルドレス、そして表面の加飾といった要素を具体的に打ち出す。抽象的な「技術力」ではなく、顧客の課題に接続する言葉に落とし込むことが、選ばれる営業の前提になる。
営業を工場に常駐させ、技術部門との距離をなくす
天昇電気の営業体制には、規模の大きい製造業とは異なる特徴がある。受託生産を担う営業担当は本社ではなく、福島や埼玉といった各工場に常駐しているのだ。一方、全国を飛び回る自社製品の営業は東京本社に置くなど、商材の特性に合わせて配置を分けている。工場に常駐する営業は、気になればすぐに技術者と話し、分からなければ現場に足を運んで相談できる。営業が製造の現場と地続きであることが、提案の解像度を支えている。
背景にはコスト面の合理性もある。工場に営業を置けば別途の営業拠点が要らず、固定費を抑えられる。加えて、新卒は入社後の一年間を工場実習に充て、成形や加工の現場を体で理解する。営業が自社の「作れるもの」を把握していなければ、顧客との対話は成立しないという設計である。
さらに近年は、営業と技術がすり合わせる場を仕組みとして設けはじめた。営業が顧客から受け取ったニーズを技術部門へ渡し、技術側が持つ新しい情報を営業が受け取る。この往復を担当者任せにせず、定例の連携プロセスとして回すことに舵を切っている。
顧客の設計工程を取り込み、リードタイムを短縮する
トータルエンジニアリングは、単なる一貫生産の言い換えではない。営業の武器としての本質は、顧客の設計・開発工程そのものを引き受けられる点にある。顧客が図面や金型まで作り込んで渡すのではなく、イメージの段階から任せられる。受注できる工程の範囲が広がり、単価と粗利を積み上げる余地が生まれる。
とりわけ自動車分野では、完成車メーカーが自動運転や安全といった付加価値の高い領域に人を割きたい局面が増えている。だからこそ、部品の成形しやすい形状への落とし込みや設計上のやり取りをTier 1・Tier 2側が引き受けることの意味が大きくなる。デザインを成形可能な形へ翻訳するノウハウは成形業者に蓄積されており、そこを任せられることが顧客の負担軽減に直結する。
顧客とのやり取りの往復を自社内に取り込めば、開発リードタイムは短縮でき、顧客側の管理工数(手間)も大幅に削減できる。
「仕事を取り込めて、期間も短くできる。そっちのほうがメリットがありますよね」
単なる値引きではなく、この工数削減とリードタイム短縮こそが、価格比較の土俵から抜け出すための最大の提案価値になる。
提案力を標準化する「育成年数とローテーション」
高度な提案は、特定の技術者の力量に依存しやすい。天昇電気はこれを組織で抱えるため、工場ごとに技術を置くのではなく、技術本部が横断的に技術をプールする体制を敷いている。福島と埼玉のあいだで人を動かすといった配置転換も、この一元管理があるからこそ可能になる。
育成にも時間軸を設けている。営業は3年、技術担当は5年でひとまず一人前とし、その到達点を教育計画として明文化する。営業は原料メーカーや他の成形会社を見て回り、ブロー成形や真空成形など自社と異なる技術に触れる。そのうえで、営業は営業、技術は技術に固定せず、節目でローテーションをかけて視野を広げていく。
異なる業界を担当した経験が、次の顧客層を広げる。車ばかりを見ていれば車しか分からない。土木や住設を経験することで見方が変わり、再び自動車を担当したときに幅が生まれる、というのが藤本氏自身の実感である。
受託依存を、三本柱の収益ポートフォリオに組み替える
ここまでの体制づくりは、より大きな収益構造の転換に向けた布石である。同社の売上は受託生産が大半を占め、自動車向けだけで全体の約7割に達すると藤本氏は語る。受託は顧客の販売量に業績が連動するため、需要が細れば収益は一気に不安定になる。受注残が積み上がっても、最終製品が売れなければそこで途切れる。これが受託特有のリスク構造である。
そこで同社が進めるのは、自動車・自動車以外・自社製品の三本柱を、それぞれ三分の一ずつに近づける収益ポートフォリオの組み替えである。自動車を減らすのではなく、自動車を伸ばしながら、非自動車と自社製品にヒト・モノ・カネを厚く配分する。営業体制を非自動車・自社製品側へ寄せ、技術者の配置も同じ方向へ動かすことで、目標を現場の資源配分に落とし込んでいく。
「戦略って、組織に反映される話なんですよ」
売る対象が決まれば、人と組織の配置をそこへ合わせる。自社製品シフトへの本気度を示す象徴的な商材が、雨水を地下に貯留・浸透させるプラスチック製施設「テンレイン・スクラム」だ。軽量で施工性が高く、再生材を用いる同製品は最大空隙率96.59%を掲げ、道路や駐車場の地表利用を想定した工法はNETISにも登録されている。受託で培った成形技術を、自ら販路と単価をコントロールできるストック型の自社製品へ振り向ける動きである。

リード獲得の経路を増やし、EV需要を受注に変える
自社製品と非自動車を伸ばすには、リードを獲得するチャネルの整備が要る。同社はホームページの刷新、会社案内の作り直し、展示会出展、金融機関によるビジネスマッチングの活用など、複数の流入経路を束ねて問い合わせの母数を増やそうとしている。実際、子会社ではサイト刷新後に問い合わせが増えた手応えもあるという。
EV化と脱炭素も、同社にとっては受注の機会である。EV化は車体の軽量化を求め、脱炭素は加工工程の削減を求める。軽量化・薄肉化・発泡、そして複数部品を一体で成形する技術は、いずれも受注に直結する提案材料になる。EV化と自動化で完成車メーカーがソフト領域へ人を割くほど、成形や設計の仕事はTier 1・Tier 2へ降りてくるため、獲得できる案件の裾野はむしろ広がる。
こうした技術価値を市場へ届ける導線を整えることが、自社製品拡販とリード獲得の生命線になる。取材やメディア露出も、問い合わせの母数を増やす一手として営業活動に組み込まれている。
実行こそが、営業改革を成果に変える
天昇電気の営業改革は、個別施策の寄せ集めではなく、一つの実行プロセスとして連結している。強みを再定義して提案の選定基準を変え、営業を工場に常駐させて技術と連携させる。育成年数を定めて提案力を標準化し、ローテーションで担当できる顧客の幅を広げる。ここまでが、提案力を底上げする現場の仕組みである。
その上で、受託依存の収益構造を三分の一ずつの三本柱へ組み替え、非自動車と自社製品へ営業・技術の資源を再配分する。リード獲得のチャネルを多角化し、EV・脱炭素の技術要求を受注機会に変える。品質と基本は標準として守りつつ、事業構成と売り方を数値目標に沿って組み替えていく。天昇電気の営業改革は、老舗が再成長へ向かうための、実務的な設計図である。
取材・文・写真:Sales First Magazine編集部