新しい顧客が増えるのは「数年に1回あるかないか」。かつての株式会社関東製作所では、既存顧客から引き合いを受け、見積もりを出し、受注するという営業スタイルが中心だった。
関東製作所の歩みは、1948年に初代社長が双菱製作所としてガラス用金型の製作を始めたことにさかのぼる。その後、ブロー成形金型を長く手がけ、射出成形金型、成形、自動機などへ事業領域を広げてきた。
現在、同社には従来接点のなかった業界や教育機関、さらには「こんな商品を作りたい」とアイデアを持ち込む個人からも相談が寄せられるという。その変化の一つの起点となったのが、2018年ごろから取り組んできたデジタルマーケティングだ。
ただし、最初から成果が見えていたわけではない。小さな展示会ブースから始め、Webサイトを改修し、MAを導入する。外部の力を借りながら試行錯誤し、やがてマーケティング部門を設けて社内にノウハウを蓄積していった。
製造業がデジタルを活用して顧客との接点をどう広げ、営業の役割をどう組み替えてきたのか。代表取締役の渡邉章氏に、そのプロセスと次の展開を聞いた。
■Interviewee
株式会社関東製作所 代表取締役 渡邉 章氏
金型から成形へ。広がった顧客との接点
関東製作所の起点はガラス用の金型だった。容器の素材がガラスからプラスチックへと移るなか、同社もプラスチックのブロー成形用金型へと領域を移していく。渡邉氏が入社した1999年当時も、ブロー成形用金型を中心とする事業が続いていたという。
なかでも自動車関連では、空調用ダクトやタンク、スポイラーなどに用いられる金型を手がけてきた。
一方、金型の需要は顧客の製品開発やモデルチェンジのタイミングに左右される。そこで同社は、ブロー成形品の後加工に使う設備の製造や、M&Aによる射出成形金型事業への参入、さらに成形事業へと領域を広げてきた。
成形まで担うようになったことは、顧客との接点にも変化をもたらした。
「金型はあくまで製品(成形品)を生産するための設備の一種のため、上流のお客様は金型屋に直接問い合わせるというより、まずは成形屋さんに問い合わせて、そこから我々に話が来る形になります。成形までやることによって、エンドのお客様が直接問い合わせをしてくれるようになり、顧客の数を広げやすくなりました」
金型、成形、後工程の設備まで扱えるようになるにつれ、「こんな商品を作りたいが、どう作ればいいのか」という相談にも対応するようになった。受託を中心としてきた事業に、提案型の仕事が少しずつ加わっていった。
2023年には、こうした製品開発支援を担う「次世代価値創造部」を立ち上げ、顧客のアイデアを具体化するための提案や支援を行っている。
そうした事業領域の広がりと重なるように始まったのが、デジタルマーケティングだった。
「金型メーカーに効果があるのか」。半信半疑からのスタート
渡邉氏が事業の大きな転機として挙げるのが、マーケティングへの取り組みだ。
ただ、最初からデジタルマーケティングを導入するという明確な計画があったわけではない。
きっかけは、社内の教育体制を強化したいと考え、あるコンサルティング会社と関わったことだった。その会社の担当者がデジタルマーケティングを得意としており、「こういったやり方もある」と提案された。
「面白そうだなと思って始めたのがきっかけです。ただ最初は、『我々のような金型メーカーがデジタルマーケティングをやって、本当に効果があるのかな』と半信半疑でした」
それまで同社では、決まった顧客から引き合いを受けて商談を進めることが多く、新規顧客が増えるのは数年に1回あるかないかという状況だったという。
だからこそ、最初から大きく投資するのではなく、小さく始めた。
展示会は小規模なブースから出展。同じタイミングでWebサイトを大幅に改修し、MAも導入した。
渡邉氏が取材の最後まで繰り返したのが、この「まずやってみる」という姿勢だった。
外部支援を活用しながら内製へ。変わり始めたマーケティング
取り組みは、開始直後から順調だったわけではない。渡邉氏によると、当初1年から1年半ほどは、メールマガジンやWebページの制作などで外部のコンサルティング会社の支援を受けながら取り組みを進めていた。
一方、金型や成形といった専門性の高い事業では、外部の担当者が自社の技術や顧客ニーズへの理解を深め、情報発信に落とし込んでいくことには難しさもあった。
そこで同社はマーケティング部門を設け、ノウハウの内製化を進めていった。
「そこからマーケティング部門をつくって、我々の中で内製化し始めたところから、自分たちも勉強しましたし、大きく変わった感じがします」
中心となるメンバーも、入社時からデジタルマーケティングに精通していたわけではなく、入社後に学びながらノウハウを身につけてきたという。
製造業の技術情報を、誰に向けて、どう伝えれば問い合わせにつながるのか。外部から手法を取り入れるだけではなく、自社の事業を理解する人材がマーケティングを担う体制へ変えていった。
「商談化まで」をマーケティングが担う
マーケティング部門を設けたことは、情報発信だけでなく営業活動そのものにも変化をもたらした。