創業から約60年、OEM中心の縫製企業として歩んできた株式会社ミヤモリは、いま大きな転換点に立っている。スポーツウェアをはじめとする高機能製品の製造で培った技術力を基盤に、販売・ブランド・提案へと領域を広げてきた同社。その根底にあるのは「人と技術」への徹底した投資と、顧客に寄り添う姿勢だ。なぜいま、製造業は“つくるだけの存在”から脱却しようとしているのか。その背景と戦略に迫る。
■Interviewee
株式会社ミヤモリ 代表取締役社長 宮森 穂氏
創業60年、「人と技術」で築いた成長の原点
株式会社ミヤモリは、日本が高度経済成長期に入ろうとする1966年(昭和41年)8月に創業した。日本全体が産業の拡大局面にあった時代の中で、同社はその波に乗りながら事業を拡大。創業当初から現在に至るまで、特定の領域に固執するのではなく、スポーツ、カジュアル、水着、産業用ロボットウェア、そして医療分野など、その時代ごとに伸びていく市場に対して柔軟に投資してきた点が特徴だ。
とりわけスポーツ分野への展開は、富山県内に存在した有力なスポーツアパレル企業との関係性をきっかけに広がっていったという。こうした外部環境と自社の技術を結びつけながら、事業領域を拡張してきた歴史がある。
その一方で、どの時代においても変わらず大切にしてきた価値観がある。それが「人と技術」への投資だ。縫製という労働集約型の産業において、人材の育成は不可欠である。同社ではOJTに加え、研修や資格取得支援などを通じて、継続的に人材育成に取り組んできた。
技術面においても、設備投資だけでなく、社内で技術レベルを可視化する仕組みを整えるなど、組織としての技術力向上を図っている。
さらに、同社が創業以来、大切にしている「素直な心」という価値観も組織の根底に流れている。これは単なる精神論ではなく、顧客の要望を真摯に受け止め、変化に適応していくための組織文化として機能している。
OEM企業の強みを磨いた“差別化技術”とは何か
ミヤモリがOEM企業として競争力を築いてきた背景には、「他社がやらない領域」にあえて取り組んできた点がある。その代表例が、伸縮性のある素材を用いた縫製技術だ。機能性や着心地を左右する重要な要素であるこの領域において、同社は高度な技術を磨くことで、他社が容易に真似できない優位性を確立してきた。
また、顧客ニーズに応じた生産体制の構築も大きな特徴だ。近年のアパレル業界ではトレンドの変化が激しく、短期間での商品投入が求められている。
同社長によれば、一般的なスポーツウェアの開発期間が1年から1年半程度かかる中で、ミヤモリでは最短で2〜3日という極めて短いリードタイムでの生産にも対応。平均的にも1ヶ月から1ヶ月半程度での対応が可能であり、顧客の在庫リスク低減や市場対応力の向上に寄与している。
こうした体制は、顧客からの要望に一つひとつ応えていく中で、結果的に企画・設計から加工までを担う一貫生産体制へと進化してきたものだ。
製造から販売へ──2019年の転換がもたらしたもの
同社の事業において、大きな転換点となったのが2019年である。この年、ミヤモリはそれまでの製造中心の事業に加え、自ら販路を持つ事業へと踏み出した。
具体的には、全国約620校への供給体制を持つ学校体育向けの販売事業と、自社ブランド『Nercocia(ネルコッチャ)』による商品展開の二軸を開始。とくに『Nercocia』は、地元・富山県産の廃棄されるハトムギぬかを活用した「アップサイクルブランド」として展開されており、同社のものづくりの姿勢を象徴している。
この決断の背景には、「顧客を理解するためには、自らも企画・販売の立場を経験し、その気持ちに寄り添う必要がある」という考えがあった。
さらに、生産効率と提供価値の最大化を目的に、2022年度まで25あったOEMの取引ブランド数を、2023年度から6ブランドへと絞り込むという大胆な意思決定も行われた。取引先を、業界トップクラスの企業や海外発信を行うブランドなど、自社の理念に共感し共に成長できるパートナーに厳選したことで、結果として売上・利益ともに向上している。
“つくる会社”から“ソリューション企業”へ
販売事業への進出や取引先の厳選を契機に、ミヤモリの顧客との関係性にも変化が生まれている。従来は製品を受託する立場であったが、現在では相談や提案を受けるパートナーとしての役割が強まっている。
その背景にあるのが、「ソリューションカンパニーになりたい」という明確な方針だ。顧客が何を求めているのかを日々の対話を通じて把握し、量産を担う立場から「どうすればより早く、低コストで高品質なものを作れるか」といった具体的な提案を行っている。
驚くべきは、この体制を支える営業部門が極めて少数精鋭であることだ。学校体育向けの営業が4名いる一方で、OEM受注などの生産側の営業は社長を含めてわずか2名程度だという。この小規模な体制で事業を拡大できている理由は、トップ自らが行うブランディング戦略にある。
社長自らがサーキュラリティ(循環型経済)などのテーマで外部の場に登壇し、メディアへの露出を増やすことで「ミヤモリ」としての認知を拡大。そのビジョンに惹かれたブランド側から自然と問い合わせが集まる、強力なインバウンドの仕組みが機能しているのだ。
サーキュラリティ時代における新たな競争軸
近年、アパレル業界において特に影響が大きいのがサーキュラリティへの対応だ。
ミヤモリでは2021年頃から、製品を長く使い続けるための「壊れない設計」や「リペア(修理)しやすい設計」の開発、さらにはリペア事業そのものにも取り組んでいる。加えて、独自の再資源化技術の開発にも着手しており、廃棄される繊維を鉛筆や脱臭剤として再生させるというユニークな取り組みを2021年から進めている。こうした取り組みは外部からも高く評価されており、2025年の「大阪・関西万博」に関連した展示では、約6,000人を集客するなど大きな注目を集めた。
次の100年へ──「第二創業期」の変革
今後の成長戦略において、海外市場も重要なテーマとなっている。日本製の高品質な製品に価値を見出す世界の一流ブランドとの連携を強化するとともに、ミヤモリという企業自体のブランディングを海外へ発信していく構想を持っている。
創業60年を迎えるミヤモリは、現在を「第二創業期」と位置づけている。ホームページの刷新やロゴ、社是の見直しなど、企業としての在り方そのものを現代に合わせてアップデートする取り組みを推し進めている。
その根底にあるのは、「チェンジ&チャレンジ」という変わらぬ情熱だ。製造業に求められる役割が変化する中で、「つくる」だけにとどまらない価値を提供し続けるミヤモリの進化は、BtoBビジネスにおけるブランディングと営業戦略の確かなヒントを示している。
取材・文:Sales First Magazine編集部