1952年に設立された高千穂交易株式会社は、海外の技術や商品を日本市場へ持ち込み、国内の顧客に合わせた技術やサービスを加えながら事業を広げてきた技術商社である。現在は、商品監視や入退室管理、サイバーセキュリティなどを扱うビジネスセキュリティと、半導体・機構部品などを扱うエレクトロメカニクスを事業領域としている。
本社が入居するYOTSUYA TOWER 3階のコモレ四谷タワーコンファレンスで開催された「TKプライベート展示会2026〜AIでひろがるセキュリティ最前線〜」も、顧客との接点の一つだ。井出尊信社長は、展示会について、新規顧客との接点になるだけでなく、新しい商品を提示し、顧客の反応や感想を確かめる場でもあると話す。
高千穂交易が現中期経営計画で掲げるのは、従来の「モノ売り」思考から「事業をデザイン」する思考への進化である。先端技術を見つけるだけではなく、顧客の課題を捉え、どの技術を、どのタイミングで、どのような形で届けるのか。井出氏の話からは、そのための営業や顧客接点のあり方が見えてくる。
■Interviewee
高千穂交易株式会社 代表取締役 社長執行役員 井出 尊信氏
1970年代から続く、先端技術を日本市場へつなぐ事業
高千穂交易の現在につながる事業の多くは、1970年代に始まっている。
1970年に商品監視システム、1971年に自動封入封緘システムと半導体の販売を開始した。その後、扱う商品や技術は変わりながらも、現在につながる事業領域がこの時期に形づくられていった。
井出氏は、創業当時から変わらないものとして、海外製品をそのまま流通させるのではなく、日本市場に合わせてカスタマイズし、サポートや運用の提案も含めて提供してきたことを挙げる。
商品が変わっても、海外の技術を日本の顧客が使える形へとつなぐ。その基本的な考え方は、長い歴史の中でも変わっていないという。
売り方だけでなく、社内の仕組みも変えたクラウド型ビジネス
井出氏が事業の大きな転機として挙げたのが、2010年代前半に始めたクラウド型ビジネスである。
井出氏は1994年に高千穂交易へ入社し、2013年にはシステム事業本部ビジネスソリューション事業部長に就任。同年、機器販売にクラウドサービスと運用・保守を組み合わせたサブスクリプション型ビジネスを立ち上げた。
売り切り型の物販は、市場の急な変化の影響を受けることがある。一方、クラウド・サブスクリプション型について、井出氏は継続的な収益のベースをつくりやすいと説明する。現在、ビジネスセキュリティセグメントの営業利益の約4割は、サブスクリプション型ビジネスからの収益によるものだという。
ただし、変わったのは顧客への売り方だけではない。
月額や年額で課金するビジネスでは、請求や仕入れ、利益管理の方法も従来とは異なる。当時は経理を含め、社内の業務そのものを変える必要があったという。
売り方が変われば、それに伴って社内の業務プロセスも変える必要があった。
クラウド型への移行は、新しい商品を扱うだけではなく、事業を支える仕組みまで見直す取り組みだった。
こうした新しい事業や技術への向き合い方には、井出氏自身の経験も影響している。入社後はIT系の技術職を経験し、トラブルシューティングを通じて、数字やデータを見ながら判断する姿勢を培ったという。
その後、20代で米国シリコンバレーに駐在。現地で働く人々のスピード感やチャレンジ精神に触れた経験から、新しいテクノロジーや変化に対して必要以上に躊躇せず、判断を早くすることを意識していると話す。
新しい技術を見つけても、すぐに売れるとは限らない
技術商社にとって、新しい商材を見つけることは重要な仕事である。
そのため高千穂交易では、長年のサプライヤーや顧客との関係に加え、米国のベンチャーキャピタルとのネットワークも情報源としている。
2020年には、シリコンバレーと日本を拠点とするDNX Venturesが運営するファンドへの出資を開始した。VCとのネットワークを通じ、クラウドやサイバーセキュリティ、リテールテックなどの領域でスタートアップの情報を早期に得る取り組みを進めている。
ただし、新しい技術だからといって、すぐ顧客へ提案できるわけではない。
「新しいテクノロジーが、すべてお客様にフィットするわけではありません。早すぎることもある。4年、5年たつとマッチしてくることもあって、良いタイミングというのがあるんです」
同じ技術でも、市場や顧客によって置かれている状況は異なる。井出氏が重要だと考えているのは、マーケティング力に加え、営業・技術が顧客とコミュニケーションを取りながら、実際の課題を把握し、技術を届けるタイミングを見極めることだ。