1954年、岐阜県山県市で創業した株式会社水生活製作所。水まわり製品を手がけ、長年の受託製造を通じて製造や設計、品質管理のノウハウを蓄積してきた。
現在、同社がさらに力を入れようとしているのが自社ブランドだ。商品をつくるだけではない。エンドユーザーや法人顧客、仕入先から声を拾い、商品企画を持ち寄る。
受託製造で培ってきたものをどう自社の力として蓄積し、自ら市場との接点をつくっていくのか。取締役社長の早川精二氏に、これまでの歩みと今後について聞いた。
■Interviewee
株式会社水生活製作所 取締役社長 早川 精二氏
受託製造で積み上げてきた、技術と品質の土台
水生活製作所のものづくりを支えてきたのが、鋳造、加工、めっきなどの工程を自社で担う体制だ。
早川氏は、こうした設備を一貫して持っていることに加え、長年にわたる受託製造によって、製造や設計のノウハウを蓄積してきたことを同社の強みとして挙げる。
その蓄積は、ものをつくる技術だけにとどまらない。受託先との仕事を通じ、品質管理や生産ラインのつくり方、QC活動などについても学んできたという。
「知識として知っているだけではなく、実際の仕事の中で品質管理をどう回していくのかを経験してきました。そういう意味では、お客様からいろいろ教えていただいたことが、私たちの血や肉になっていると思います」
受託製造を続けることで、設計や製造の技術を磨き、品質に対する考え方も身につけてきた。その経験が、現在の自社商品の開発にもつながっている。
一方で、受託製造だけでは、蓄積したノウハウを会社全体のものとして引き継いでいく難しさもあると早川氏は感じている。
受託製造を続けながら、今後はさらに自社ブランドを育てていく。それが、早川氏の描く方向性だ。
「オール・MIZSEIとして」力を蓄える自社ブランド
なぜ、自社ブランドを増やしたいのか。
早川氏が理由の一つとして挙げるのが、オール・MIZSEIとしてノウハウを蓄積していくことだ。
受託製造では、案件ごとの経験が特定の担当者や部署に蓄積されることもあり、すべてを組織全員へ伝承していくことは簡単ではない。世代交代の中で、かつての仕事のノウハウを十分に引き継げなかった経験もあったという。
「オール・MIZSEIとしてノウハウをためて、力をつけていくのは、やっぱり自社商品、MIZSEIブランドだと思っています。この会社の誰々、この部署ということではなく、『水生活として』力をつけていきたいんです」
もう一つ、早川氏が自社ブランドに取り組む理由として挙げるのが、自ら価格を決めて商品を届けられることだ。
「自分たちで値段をつけて、ものを売っていく。受託製造ではできないことなので、そこも自社ブランドを増やしていきたい理由の一つです」
自ら商品を企画し、値付けをして届けることも、自社ブランドを育てるうえで早川氏が重視している点の一つだ。
水生活製作所では、先代の時代から自社商品の開発に取り組んできた。早川氏の記憶では、1980年代には自社商品の開発を始めていたという。当初は不具合も多く、決して順調な出発ではなかった。それでも改良を重ね、現在は売上の35%を自社ブランドが占めるまでになった。
中期的にはまず自社ブランド比率50%を目指し、早川氏自身は「将来的には70%程度まで高めていきたい」と考えている。
受託製造をやめるのではない。そこで得られる技術や品質のノウハウはもちろん大切にしながら、自社ブランドでも会社としての力を積み上げていく。それが、早川氏が描く現在の方向性だ。
顧客の声を、毎月の商品企画へ
自社商品を育てていくうえで、水生活製作所が重視しているのが顧客の声だ。
その入口は大きく二つある。
一つは、購入者から届くアンケート。実際に商品を使ったエンドユーザーから、良かった点だけでなく、改善を求める声も寄せられる。
もう一つが法人営業だ。営業担当者は日々の活動報告の中で、顧客から寄せられた要望や不満、「こういうものをつくってほしい」「ここを改良してほしい」といった声を記録する。それらをもとに、毎月の商品開発会議へ企画を上げている。
ただ、早川氏がこの仕組みに期待しているのは、新商品を生み出すことだけではない。
「商品企画を上げるためというよりも、営業担当者がお客様の声を正しく聞くことや、しっかり商談をする教育的な側面もあります。お客様から話を聞かなければ、企画のネタは出てきませんから」
企画を考えることが、顧客との会話を深めるきっかけにもなる。
営業から出された企画の多くがそのまま商品になるわけではない。それでも継続して企画を出してもらうことで、営業担当者が顧客の課題や要望に耳を傾ける機会をつくっている。
顧客の声を聞く。それを社内へ持ち帰る。開発側が形を考える。企画として採用されなかったものでも、別の顧客への提案につながる場合があるという。
顧客との接点と商品開発を切り離さず、行き来させているのが同社の商品づくりだ。
まだ知らない顧客へ、どうたどり着くか
既存の業界から一歩外へ出ると、顧客との接点づくりはさらに難しくなる。
早川氏が現在、その難しさを感じているのが自治体向けの市場だ。
同社では、家庭用浄水器をベースに、電気を使わず手押しポンプで利用できる災害用の浄水器を展開している。地元では備蓄倉庫への導入事例もあるという。
今後、早川氏が考えているのが、こうした防災分野でのB2G、自治体との接点を広げていくことだ。
一方で、自治体へ商品を届けるには、民間企業への営業とは異なる部分がある。
「どこに、どういう人を通じていくのが最短距離なのか、常に考えています。自治体となると、どこへどうアプローチすればいいのか、まだ分からないところも多い。今は手探りです」
知見を持つ企業や地元議員などにも話を聞きながら、まずは地元で事例をつくり、そこから広げていくことを考えている。
その際、早川氏が強調するのは、販売することだけを目的にしないことだ。
災害時には給水車を待たなければならない場面もある。飲料水だけでなく、洗顔や洗濯などに使う生活用水も必要になる。そこで、電気がなくても使え、子どもでも操作できるものとして手押し式を考えたという。
「一番重要なのは、売ることではなくて、災害のときに避難場所で困っている方を考えることだと思っています」
まだ販路を確立した段階ではない。だからこそ、誰に、どのように届ければよいのかを探っている。
水まわりの技術を、次の領域へ
もう一つ、これから接点を広げたい領域として早川氏が挙げるのが、半導体関連やデータセンターだ。
現在も同社の商材や部品が一部で使われていると聞くことがあり、そこから「もっと役に立てることがあるのではないか」と考えているという。
特にデータセンターでは今後冷却に水を使う可能性があることから、水まわりで培ってきた技術との接点を模索している段階だ。
「事業領域とまで言えるようになればいいんですが、半導体製造装置やデータセンターのようなところでも、何か水関連でお役に立てることがあるのではないかと思っています」
既存の製品をそのまま別市場へ売るという話ではない。企業との交流を増やし、自社の技術が使える場所を探していく。
自治体向けの防災分野と同様、まだこれから接点をつくっていく領域である。だからこそ早川氏は、分からないことを前提に、外へ話を聞きに行こうとしている。
かつて先代が外部の異業種交流へ出向き、社外との接点から新しい商品につながるヒントを得てきた。その姿勢は、形を変えながら現在にも続いている。
自社商品をみんなでつくり、「明るい会社」へ
3年後、5年後、水生活製作所をどのような会社にしていきたいのか。
早川氏が掲げるのは、「明るい会社」だ。
「明るい会社というのは、ココロとフトコロ(財布)が温かくなければいけないと思っています」
自社商品をみんなでつくり、みんなで売っていく。そこに仕事の面白さが生まれ、社員の生活も豊かになっていく。そのような会社であれば、次の世代を担う人材も集まりやすくなるのではないかと考えている。
水生活製作所の企業理念は、「私たちは、水まわりに、より良い価値を提供し、幸せな暮らしと、社会に貢献します」。早川氏は取材の中で、この「幸せな暮らし」の中で従業員の幸せが第一、と語った。
防災・防犯、節水、浄水、美容、美観。水まわりに新しい価値を加える商品を生み出し、それを必要とする人へ届ける。その結果として社員にも還元し、会社を次の世代へつないでいく。
100年企業という言葉も口にするが、それを大きな目標として掲げるだけではない。
まずは、自社の商品をつくり、顧客との接点を一つずつ増やしていく。そして「明るい会社」にする。
受託製造で積み重ねてきたものを土台に、自社ブランドと新しい顧客接点を育てる水生活製作所の次の歩みは、その積み重ねの先にある。
取材:Sales First Magazine編集部/文:亀田君子