こんにちは!マーケティング・コンサルタント安藤芳樹です。
今回は、ちょっと面白い「現場の裏話」から、皆さんのビジネスにも役立つマーケティングの本質について考えてみたいと思います。
先日、カラオケ業界でなんと20年間も働いていたという方と、お話する機会がありました。その方が担当されていたのは、カラオケで流れる「曲」の制作。つまり、私たちがマイクを握る時に流れる、あの演奏部分を作っていたんです。
そのエピソードが、まさに「顧客志向」の難しさ、そして面白さを物語っていて、ものすごく興味深かったんです。
忠実再現派 vs. 歌うこと優先派!現場で繰り広げられた「戦争」
皆さん、ご存知でしたか?カラオケで流れる曲って、実は、有名アーティストの本家の演奏からボーカルだけを抜いたもの(いわゆる「オケ」)をそのまま使うのはNGなんです。著作権とか権利関係の都合ですね。
だから、カラオケメーカーは、自分たちでイチから楽器を演奏して、それをレコーディングし直す、いわゆる「カバー演奏」として制作しているんです。
ここで、社内で深〜い対立が生まれていたそうです。その名も、「原曲忠実派」と「顧客の歌うこと優先派」。
この二つの派閥、聞いているだけで、皆さんの会社の「商品開発部門」と「営業部門」の対立にちょっと似ていると思いませんか?(笑)

対立ポイント その1
長いイントロ、どうする問題
原曲の中には、演奏が始まるまでに、もう「聴かせるための音楽」として、ドラマチックに長いイントロがある曲ってありますよね。
原曲忠実派:アーティストの意図を尊重すべきだ!このイントロがあってこそ、この曲なんだ!」と、たとえ30秒あろうと、忠実に再現しようとします。
歌うこと優先派:いやいや、お客さんはマイクを握って早く歌いたいんだ!長いイントロは、イライラさせて機会損失になる!さっさとカットするか、短くしよう!」と主張します。
これは、商品開発で言えば、「技術的な完璧さ」を求めるか、「ユーザーの利便性」を追求するかの対立そのものですよね。
対立ポイント その2
ビートルズ「ヘイ・ジュード」の「ラ~ララ~」問題
これは特に有名ですが、ビートルズの「ヘイ・ジュード」の後半。延々と「ナー、ナーナーナーナナーナー、ナーナーナーナー、ヘイ・ジュード♪」という大合唱パートが繰り返されます。原曲だと、確か4分くらいこの繰り返しがあるはず。
原曲忠実派:あの“グルーヴ感”こそ、この曲の醍醐味だ!忠実に何度も繰り返して、お客さんにも陶酔してもらおう!」
歌うこと優先派:カラオケで4分も同じフレーズを繰り返すのは苦痛でしかない!お客さんは飽きる!気持ちよく歌って、さっと終わらせて、次の曲に行ってもらうのがサービスだ!」と、容赦なく短縮カットを主張します。
僕がお話を聞いた方は、「あのパートは、カットするのも仕事だった」と言っていました。このエピソード、まさに「お客様が求めている価値は何か?」という問いに対する答えを、現場が必死に出そうとしている姿が見えて、胸が熱くなります。
対立ポイント その3
超絶ギターソロ、どうする問題
曲の途中に、何十秒もある、超絶技巧の長いギターソロ。
原曲忠実派:これを短くするのは、その曲の魂を抜くのと同じだ!」
歌うこと優先派:カラオケのお客さんは、歌う人であって、ギターソロを聴きに来た人ではない!みんなが手持ち無沙汰になる長い間奏は、歌う楽しさを削ぐだけだ!」と、ここでもカットや短縮を主張します。

専門家として、私たちは「どちらを選ぶべきか」
僕がお話したその方は、元々は「原曲忠実派」だったそうです。音楽家としてのプライドがありますから、完璧な再現を目指すのは当然ですよね。しかし、長く現場で働くうちに、「顧客の歌うこと優先派」に宗旨替えした、と語ってくれました。
彼は言います。「僕たちは、『聴かせるための音楽』を作っているんじゃなくて、『お客様が気持ちよく歌うための道具』を作っているんだ、と気づいたんです。」
いやー、これ、すごくないですか?僕たちマーケターにとって、このエピソードは強烈な教訓をくれます。
僕たちの仕事も同じです。
「原曲忠実派」の視点とは、「自社の技術の高さ」「商品のスペックの良さ」「理論の完璧さ」を追求し、それをそのままお客様に押し付けることです。
「顧客の歌うこと優先派」の視点とは、「お客様が解決したい課題は何か」「お客様が気持ちよくなれる瞬間はどこか」だけを考え、自社の都合を削ぎ落とすことです。
つまり、「イントロをカットする」とは、「お客様の不満やストレスになる部分を、心を鬼にして切り捨てる勇気」なんです。「ラ~ララ~を短くする」とは、「お客様の目的(=歌いきること)の邪魔になる無駄を、サービスとして取り除く決断」なんです。
この「顧客の歌うこと優先派」こそ、まさに、僕たちが目指すべき真の顧客志向だと思いませんか?
しかし、中にいると「原曲忠実派」の存在もなかなか減らない、という話も印象的でした。なぜなら、「忠実な再現」は「良い仕事をした」という作り手の自己満足を満たしやすいからです。一方、「カットや短縮」は、地味で目立たず、むしろ「手抜き」に見られがちですが、これこそがお客様への最高の配慮なんですよね。
僕たちマーケティングの専門家も、ともすれば「最新の理論」「完璧なデータ分析」といった“忠実な再現”にばかり気を取られがちです。しかし、本当に価値があるのは、お客様の「歌いたい!」というシンプルな欲求を、いかに気持ちよく、迷いなく実現させてあげるか、その“歌うこと優先”の精神です。
あなたの会社の商品やサービスにも、お客様の「歌うこと」を邪魔している「長すぎるイントロ」や「終わらないラ~ララ~」が潜んでいませんか?
「お客様が望んでいるのは、完璧な技術の披露ではなく、ただ気持ちよくゴールにたどり着くことだ」
このカラオケ業界の教訓を胸に、今日も「顧客の歌うこと優先派」として、泥臭く、しかし本質を突いたマーケティングを追求していきましょう!