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変わったのは、アルゴリズムではない。検索体験そのものだ
検索順位が変わらなくても、トラフィックが減っている。ページは見られていないのに、なぜかその情報だけが"使われている"気がする。広告収益やリード獲得数が目に見えて落ちている。
その原因は、もはや「SEOのテクニック」では説明できない。変わったのは、検索体験そのものだからである。
本記事では、Googleが本格展開を進めている「AI Mode(AIモード)」――正式名称「Search Generative Experience(SGE)」の仕組みと意図、そしてそれが従来のSEOに与える決定的な影響について深掘りしていく。
AI Mode(SGE)とは何か?
Google AI Modeは、従来の検索結果に加えて、AIが自動生成した"回答エリア"を検索結果ページに挿入する機能である。このAI回答は、検索キーワードに応じてWeb上の複数の情報を要約・再構成して表示される。
たとえば、「リーダーシップとは?」と検索すると...
- 上部にAIがまとめた要点(定義・特徴・重要性など)
- 横に参考サイトの出典リンク(3~5件程度)
- さらに下に通常の検索結果
このように、検索結果の"上部"をAIが奪っていく構造になっている。
しかも、ユーザーが「もっと教えて」と追加入力をすると、チャット形式でAIとの対話が続くUI設計になっており、外部サイトへの遷移はどんどん減っていく。
従来の検索体験との決定的な違い
ここで、従来の検索体験との決定的な違いを比較してみよう。
従来の検索 vs AI Mode(SGE)
項目 | 従来の検索 | AI Mode(SGE) |
---|---|---|
表示される情報 | 検索結果(リンク一覧) | AIが要約した"答え" |
ユーザーの行動 | 気になるリンクをクリック | ページ内で完結・対話的に深掘り |
サイトの役割 | 訪問して情報を提供する | 情報源として吸い上げられるだけ |
出典表示 | 通常の順位表示 | 補足的なリンク(クリック率は低) |
これにより「クリックして読む」から「AIの答えを確認して終わる」へ、ユーザーの検索行動そのものが変質する。
なぜWebサイトは"使われるだけ"になったのか?
この新しい検索体験において、Googleがユーザーに価値を提供する一方で、Webサイト運営者にはメリットが還元されない構造になっている。
理由1:出典リンクは"信用補完"にすぎない
SGEでは、AIが参照したページのリンクがいくつか表示されるが、それはあくまで「この情報の根拠はこちら」という意味合いである。クリックを促すためのものではないのだ。
実際にCTR(クリック率)は、通常の検索結果リンクと比べて大幅に低下しており、出典として表示されてもほとんどアクセスにはつながらないのが現状である。
理由2:AIは情報を"中身"だけで扱う
AIは構造やレイアウト、広告、CTA(資料DL・無料相談)などを無視し、テキスト情報だけを抽出・要約する。Webページの"設計"がコンバージョンを意図していたとしても、それは無視されるのだ。
理由3:Googleは「外部に出さずに済ませたい」
これはGoogleのビジネス上の合理性でもある。
- ユーザーがGoogle上に長く滞在すれば、広告表示機会が増える
- ユーザーがリンクをたどらなければ、検索体験がシームレスになる
- 外部ページの信頼性を逐一確認しなくて済む
結果として、検索結果内で"答えが完結"する構造が理想とされているのである。
検索流入が不要になる未来
このままAIモードが主流になっていくと、次のような世界が訪れるだろう。
- 検索流入(いわゆる「オーガニック検索トラフィック」)は激減
- どれだけSEO対策しても、ユーザーが記事本文を読む前に離脱
- アフィリエイト、バナー、CTAなどによる収益が立たない
- 検索キーワードを狙う記事=AIの要約素材でしかなくなる
これは、Webサイトにとって"機能しないコンテンツ"が急増することを意味する。
それでも情報を提供し続けるべきか?
ここで大きなジレンマが生じる。
- 情報を開放すれば、AIに吸い上げられる
- 情報を閉じれば、そもそも検索にも引っかからない
- どうすれば、情報を"資産"として扱えるのか?
これに対する一つの答えが、AIクローラー(Google-Extended)の制御である。
robots.txtなどを用いて、特定のページだけAIに読み込ませないことで、"使われても還元されないページ"を保護する必要がある。
AI Modeは「検索エンジン」ではなく「回答生成機」に近い
Google AI Modeは、もはや検索エンジンではなく、ユーザーの質問に即答する"AIアシスタント"として設計されている。
この違いは極めて重要だ。
検索エンジン(従来) vs 回答生成機(AI Mode)
項目 | 検索エンジン(従来) | 回答生成機(AI Mode) |
---|---|---|
情報の提示形式 | 情報を探すためのリンク集 | 情報を再構成した一つの答え |
理解の前提 | 複数ページを見比べる前提 | 1画面で理解が完結する前提 |
トラフィックの前提 | トラフィック誘導が前提 | トラフィック不要が前提 |
この変化を理解せずに「SEO対策」を続けることは、交通ルールが変わった後に古い地図で運転しているようなものである。
この変化にどう対応すべきか?
対応には段階がある。
- 自社のコンテンツがAIに"使われている"かどうかを確認する
- 情報の出し方を「AI耐性」のある設計に切り替える
- AIに見せる情報・見せない情報を戦略的に分ける(クローラー制御)
- SEO以外の集客チャネルを本格構築する
つまり、「SEOで見つけられる」ことと、「ユーザーに届く」ことはもはやイコールではないと認識することが第一歩なのである。
次回は「AI時代の情報戦略とクローラー制御」について
AI Modeによって、検索エンジンというものが「Webに人を送る装置」ではなくなった。今やGoogleは、Webを巡回して情報を"集める装置"になりつつある。
次回の第3回では、Webサイトは今後どのように情報を守り、活かすべきか。どのページをAIに開放し、どのページを守るべきか。そしてGoogle-Extendedの制御方法や、今すぐ見直すべき"情報公開戦略"について、具体的に解説していく。
この連載は、AI時代のWeb戦略に不安や課題を感じている方々に向けて、現実的かつ実践的な示唆をお届けする。
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著者プロフィール
渡辺 順也
株式会社イノベーター・ジャパン 代表取締役社長
社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科 准教授
慶應義塾大学 商学部を卒業後、日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社(現・日立ソリューションズ)、株式会社サイバーエージェントを経て、2010年に株式会社イノベーター・ジャパンを創業。BtoB営業DXソリューション「Sales First」をはじめ、人のポテンシャルを最大限に引き出すことをパーパスに掲げた事業を展開。2017年から社会構想大学院大学の准教授として、デジタルコミュニケーションを専門として社会人教育にも従事。