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スポーツイベントは「感動」と「体験」という価値の宝庫
スポーツイベントの本質は、単なる競技の披露ではありません。そこには、選手の情熱、観客の熱狂、勝利の歓喜、敗北の涙など、人々の感情を揺さぶるドラマがあり、共有された興奮や感動というかけがえのない「体験」が存在します。成功するスポーツイベントは、この「体験」という価値を最大限に引き出し、観客に提供することで、単なるチケット販売を超えたエンゲージメントを生み出しているのです。
例えば、世界的なサッカーリーグであるイングランド・プレミアリーグは、試合そのものの魅力はもちろんのこと、スタジアムの一体感、ファン同士の交流、歴史と伝統といった要素を巧みに演出し、「週末の特別なエンターテインメント」という価値を提供しています。ファンは単に試合を見るだけでなく、その雰囲気や文化を体験するためにスタジアムに足を運び、グッズを購入し、SNSで語り合うのです。
また、オリンピックやワールドカップといった国際的なスポーツイベントは、国民の誇りや一体感といった、より大きなエモーショナルな価値を提供します。人々は自国の代表選手を応援することで、個人的な喜びだけでなく、国家としての誇りや連帯感を共有し、その感動は生涯記憶に残る「体験」となるのです。
レッドブルのスポーツ戦略:単なるスポンサーシップを超えた価値創造
さて、ここでレッドブルに焦点を当ててみましょう。彼らのスポーツイベントへの関与は、単なる広告露出としてのスポンサーシップとは一線を画しています。レッドブルは、自らが主催または深く関与するイベントを通じて、ブランドイメージと製品が提供する価値を巧みにリンクさせているのです。
例えば、レッドブルが主催する「Red Bull Air Race」は、スリリングなエアショーを通じて、「エネルギー」「スピード」「挑戦」といったブランドイメージを視覚的に訴求し、観客にユニークな「体験」を提供します。
また、エクストリームスポーツの分野では、数々のイベントやアスリートをサポートすることで、「限界への挑戦」というブランドのキーメッセージを体現しています。
レッドブルの日本市場への周到な布石:リポビタンDと宮本恒靖氏
レッドブルの成功の背景には、周到な市場調査と戦略的な準備がありました。実は、レッドブルがエナジードリンクというコンセプトのヒントを得たのは、日本の栄養ドリンク市場、特に大正製薬の「リポビタンD」だったと言われています。疲労回復や活力増強を謳うリポビタンDの成功事例から、機能性飲料のポテンシャルを見出したのです。
さらに、レッドブルの日本市場への参入戦略の用意周到さを示す事例として、現在のJリーグチェアマンである宮本恒靖氏の存在が挙げられます。現役時代、宮本氏がオーストリアの強豪クラブ、レッドブル・ザルツブルクに在籍していたことは記憶に新しいでしょう。
スイスリーグではなく、あえてレッドブルがバックアップするオーストリアリーグに、将来の日本サッカー界を担う人材を招き入れたことは、単なる選手の獲得というだけでなく、日本市場におけるブランド認知度向上と信頼構築に向けた長期的な投資だったと考えることができます。
「モノ」ではなく「体験」と「感情」を売る
これらの事例から明らかなように、成功するマーケティングは、製品そのものの物理的な特性を強調するのではなく、それが顧客にもたらす「体験」「感情」「意味」といった無形の価値を提供することに焦点を当てています。スポーツイベントは、まさにこの「価値」を最大限に提供できる舞台であり、レッドブルはそのポテンシャルを誰よりも理解し、戦略的に活用していると言えるでしょう。
「モノを売るな、価値を売れ!」
このキーメッセージをビジネスのあらゆる側面に取り入れることで、顧客とのエモーショナルな繋がりを強化し、競争の激しい市場においても持続可能な成長を実現することができるはずです。
著者プロフィール
安藤 芳樹
「セブンチャート仕事術」開発者。セブンチャートインストラクター、オフィスミラクス代表
広告代理店(ADK)に勤務しながらドラッカーを実践。「5つの質問」で企業トップとの事業の定義を合意しながら経営者視点で商談を進め顧客に認められる。40歳の頃、ビジネス観や人生観に普遍の基盤をもちたくドラッカーに目覚める。その知見体得のために試行錯誤してたどり着いたのが「セブンチャート仕事術」。その体得のためにやった反復訓練は30000ページのチャートを作るにいたり、今も増殖中。さぬきうどんブームの仕掛け人であり、映画「UDON」のトータス松本の役柄モデルでもある。立教大学卒業。2021年12月23日 初の著書「チャートで考えればうまくいく」を上梓。