保険の常識を覆す!PayPay熱中症見舞金が示すマーケティング

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目次

  1. 「保険」の心理的バリアを払拭するネーミングとUI
  2. 顧客の「欲しい」に応える、具体的なユースケースと低価格戦略
  3. ユーザーフレンドリーな決済体験がもたらす「ポチっと」の気軽さ
  4. マーケティングが創造する、新たな価値と行動変容

先日、何気なくスマートフォンを操作しているときに、PayPayアプリの片隅に「熱中症見舞金」という小さなボタンを見つけました。軽い気持ちでタップしてみると、そこに広がるマーケティング設計の巧みさに、私は深く感銘を受けました。これは、まさに保険業界、ひいてはサービスデザイン全体における常識を覆すような、革新的なアプローチだと感じました。

「保険」の心理的バリアを払拭するネーミングとUI

まず、そのネーミングセンスに脱帽です。「PayPayほけん」とひらがなで表記し、「熱中症見舞金」という極めて具体的で身近な言葉を選んでいる点。この選択が、保険という言葉が持つ従来の「構える感」や「難解さ」を見事に払拭しています。私たちは往々にして、「保険」と聞くと、複雑な約款、長期的な契約、そして大きな金額を連想しがちです。

しかし、このサービスは、そうした心理的なバリアを最初の一歩で取り除いています。ユーザーインターフェース(UI)においても、PayPayという日常的に使うアプリの中に溶け込む形で存在することで、サービスの発見から利用までを極めてスムーズにしています。

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顧客の「欲しい」に応える、具体的なユースケースと低価格戦略

次に素晴らしいのは、その提案方法です。「1日の運動会に熱中症対策で100円」という、具体的かつ共感を呼ぶユースケースを提示している点です。多くの人々が経験するであろう「ちょっとした不安」に寄り添い、それをわずか100円というワンコインで解決できるという手軽さを打ち出しています。

これは、「高額な安心」ではなく、「手軽な安心」という新しい価値を提供しているに他なりません。この低価格戦略は、顧客が「100円ならいいか」と気軽に試せる心理的ハードルを劇的に下げ、購買行動へとスムーズに誘導しています。

ユーザーフレンドリーな決済体験がもたらす「ポチっと」の気軽さ

そして、決定打とも言えるのが、PayPayでの決済の簡便さです。「支払いはPayPayでポチっておわり」という、まるで日常の買い物の延長のような感覚で保険に加入できる設計は、ユーザーにとって非常にストレスフリーです。

従来の保険加入プロセスにつきものだった、書類の記入や複雑な手続き、待機時間といった煩わしさが一切ありません。この徹底したユーザーフレンドリーな体験設計が、最終的なコンバージョン率を大きく押し上げているのは想像に難くありません。

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マーケティングが創造する、新たな価値と行動変容

この「熱中症見舞金」の成功は、単に良い商品を開発したというだけではありません。顧客の潜在的なニーズを掘り起こし、保険に対する固定観念を打ち破り、「保険は難しくて面倒」という認知を「手軽で身近なもの」へと変容させた、まさにマーケティングの勝利と言えるでしょう。

商品設計から価格設定、プロモーション、そして決済に至るまで、顧客心理を徹底的に読み込み、シームレスなカスタマージャーニーを提供することで、新たな市場を創造している好事例です。

著者プロフィール

安藤 芳樹

安藤 芳樹
「セブンチャート仕事術」開発者。セブンチャートインストラクター、オフィスミラクス代表

広告代理店(ADK)に勤務しながらドラッカーを実践。「5つの質問」で企業トップとの事業の定義を合意しながら経営者視点で商談を進め顧客に認められる。40歳の頃、ビジネス観や人生観に普遍の基盤をもちたくドラッカーに目覚める。その知見体得のために試行錯誤してたどり着いたのが「セブンチャート仕事術」。その体得のためにやった反復訓練は30000ページのチャートを作るにいたり、今も増殖中。さぬきうどんブームの仕掛け人であり、映画「UDON」のトータス松本の役柄モデルでもある。立教大学卒業。2021年12月23日 初の著書「チャートで考えればうまくいく」を上梓。

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