Netflixの逆転劇! リモコンの小さなボタンが変えたマーケティングの常識

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今回は、一見地味ながらも、マーケティングの本質を突くNetflixの伝説的なエピソードをご紹介します。それは、「テレビのリモコンの選択ボタンにNetflixを入れてもらうため、リモコンの製造原価の10%をNetflixが負担した」という話です。この小さな決断が、いかに彼らの成長を加速させたか、そして現代のマーケティングにどう活かせるか、深掘りしていきましょう。

目次

  1. なぜNetflixは「リモコンのボタン」にそこまでこだわったのか?
  2. このエピソードから学ぶ現代マーケティングのヒント

なぜNetflixは「リモコンのボタン」にそこまでこだわったのか?

Netflixがストリーミングサービスを立ち上げた当初、最大の課題は「いかにユーザーに利用してもらうか」でした。当時はまだDVDレンタルが主流で、オンライン動画視聴は一部のギーク層に留まっていました。そんな中、Netflixはユーザー行動を徹底的に分析します。

人は、新しい行動を起こす際にわずかな「摩擦」でも躊躇するものです。テレビでNetflixを見るためには、多くの手間がかかりました。テレビをつけ、ゲーム機や外部デバイスに切り替え、そこからNetflixアプリを探して起動する…。この「数クリック」のプロセスが、実は非常に高いハードルだったのです。

そこで彼らが目をつけたのが、テレビのリモコンにある「ダイレクトボタン」でした。もしNetflixのボタンがあれば、ユーザーはリモコンを手に取り、たったワンクリックでNetflixの世界に飛び込める。この圧倒的な手軽さが、利用のハードルを劇的に下げることを彼らは直感的に理解していたのです。

しかし、テレビメーカーにとっては、特定のサービスに優先的にボタンを割り当てるメリットは大きくありません。そこでNetflixが提案したのが、「リモコン製造原価の10%負担」という破格の条件でした。一見すると大きなコストに見えますが、Netflixにとっては「ユーザー獲得コスト」として、これ以上の費用対効果はないと判断したのでしょう。

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このエピソードから学ぶ現代マーケティングのヒント

このNetflixの事例は、現代のマーケティングにおいて学ぶべき多くの示唆に富んでいます。

  1. 「摩擦」の排除が最重要課題
    ユーザーが目的を達成するまでの道のりにある、あらゆる「摩擦」を特定し、徹底的に排除すること。Netflixにとっての摩擦は「視聴開始までの手間」でした。皆さんのサービスや製品において、ユーザーが購買や利用に至るまでの隠れた摩擦はありませんか?申し込みフォームの項目が多すぎる、決済方法が限定的、問い合わせ導線が分かりにくいなど、些細なことでもユーザーは離れていきます。

  2. ユーザー行動の深掘り
    表面的なニーズだけでなく、ユーザーが「どのように行動するか」を深く洞察すること。Netflixは、ユーザーが最も手軽にコンテンツにアクセスできる方法が「リモコン」であることを見抜きました。顧客がどのようなデバイスを使い、どんな場所で、どんな時に、どのような心理で皆さんの製品やサービスに触れるのか、徹底的にユーザーになりきって考えてみましょう。

  3. 常識を疑う「投資」の視点
    リモコンの原価負担という、一見すると異例の投資。しかし、これはユーザー獲得において最も効果的なチャネルへの戦略的投資でした。皆さんの予算配分は、本当にユーザー獲得の「最も効果的なポイント」に投じられていますか?広告費だけでなく、使いやすさの改善やサポート体制の強化など、顧客体験全体への投資が長期的なLTV(顧客生涯価値)を高めることを忘れてはなりません。

  4. 物理的・心理的プレッシャーの軽減
    リモコンのボタンは、ユーザーにとって物理的な行動の簡略化であると同時に、「Netflixを見る」という心理的な敷居も下げました。「いつでもすぐ見られる」という安心感は、サブスクリプションサービスの継続率にも大きく寄与したはずです。皆さんのサービスは、ユーザーにどんな「気軽さ」を提供できていますか?

このNetflixの戦略は、単なる広告費の多寡ではなく、「いかにユーザーの日常に溶け込み、シームレスな体験を提供するか」という本質的な問いかけを私たちに投げかけています。

皆さんのビジネスにおいても、顧客の「小さな手間」を解消する大きな一手がないか、ぜひ見つめ直してみてください。その一歩が、想像を超える成長に繋がるかもしれません。

著者プロフィール

安藤 芳樹

安藤 芳樹
「セブンチャート仕事術」開発者。セブンチャートインストラクター、オフィスミラクス代表

広告代理店(ADK)に勤務しながらドラッカーを実践。「5つの質問」で企業トップとの事業の定義を合意しながら経営者視点で商談を進め顧客に認められる。40歳の頃、ビジネス観や人生観に普遍の基盤をもちたくドラッカーに目覚める。その知見体得のために試行錯誤してたどり着いたのが「セブンチャート仕事術」。その体得のためにやった反復訓練は30000ページのチャートを作るにいたり、今も増殖中。さぬきうどんブームの仕掛け人であり、映画「UDON」のトータス松本の役柄モデルでもある。立教大学卒業。2021年12月23日 初の著書「チャートで考えればうまくいく」を上梓。

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