老朽建物・インフラの耐震補強を主力とする建設企業 株式会社キーマン。その独自技術と提案力で、民間需要を切り拓き、官から民へと事業を拡大中だ。営業マン1名体制でも成立する“技術起点の営業モデル”、新規事業「REDO」によるプロデュース型事業展開。ニッチ市場から成長を描く経営のリアルに迫る。
技術と営業を分けない──“現場起点”の成長モデル
「うちには、名刺に“営業部”と書かれた人間は一人しかいません」。
そう語るのは、株式会社キーマン代表取締役の片山寿夫氏。補修・補強の専門企業として設立以来30年、同社は「営業=現場」と定義し、リピート受注を原則とする“現場起点型営業”モデルで成長してきた。
案件の大半は、施工後の現場からの紹介や、技術に信頼を寄せた元請・ゼネコンからの再依頼だ。そこでは、営業トークよりも「現場で何をやってくれたか」が最も重視される。
「営業職が現場を知らずに受注してくると、かえって現場が苦労する。だからこそ、我々は“技術者が直接顧客と対話する”スタイルをとっているんです」
施工管理職がそのまま営業窓口になるという、柔軟かつフラットな営業構造が、少数精鋭でも回る事業体制を可能にしている。
セカンドオピニオンで選ばれる──コストと信頼の設計提案
同社が重視しているのは、「いかに顧客目線で提案できるか」。
公共工事が多いインフラ領域に加え、ここ10年は民間建築市場にも力を入れており、民間ではコストとデザイン性を両立させた“提案型営業”が重要になる。
「例えば、他社で6億と見積もられた耐震補強を、うちは1.5億でやったケースもある。設計者の思想次第で内容は大きく変わる。そこに我々の出番があるんです」
それを可能にしているのが、同社が長年蓄積してきた“セカンドオピニオン力”だ。構造設計のやり直し、施工条件の再設定、意匠への影響を抑える設計手法の工夫。
単なるコストダウンではなく、構造安全性と収益性の最適バランスを追求するスタイルが信頼を集めている。
“補修”の再定義──老朽建物を価値資産に変える「REDO」
耐震補強の技術力を活かし、近年同社が打ち出したのが「REDO(リド)」という新規事業だ。
その第一弾が、東京・神保町で手がけた老朽ビル再生プロジェクト。築49年のビルを取得し、耐震補強+リノベーションによって、「収益が出る建物」として再生させた。
「ビルを壊さず、使いながら、価値を高める。これがREDOの思想です」
このプロジェクトでは、1階に若手シェフのインキュベーションレストラン、2階にイベント・レンタルスペース、上層階にシェアハウスを設置。建物の特性を活かした“収益化モデル”をデザインしている。
また、建物そのものを広告塔として活用するという発想もユニークだ。老朽化ビルの耐震リノベが、見える形でビジネスとして成立していることを示すことで、新たな問い合わせも生んでいる。
複数チャンネルでの集客──イベント型・プロデュース型営業戦略
営業の入り口もまた多様だ。
神保町のREDOプロジェクトでは、リノベーションの企画段階から設計事務所、不動産リーシング会社、飲食プロデューサーなどとコラボレーションし、企画設計からテナント誘致までを一貫して支援した。
「我々は施工のプロですが、街づくりやブランディング、飲食運営は専門外。だからチームを組んでプロジェクトを動かすんです」
その結果、各関係者のネットワークを通じて、複数の顧客と自然接点が生まれている。
さらに片山氏自身が登壇するセミナーやイベントも、重要なリード獲得手段のひとつ。受注に直結しない段階から顧客の課題を把握し、「もし予算が厳しければ、セカンドオピニオン出しますよ」というスタンスで丁寧に拾っていく。
押し売りしない、技術で寄り添う。そんな“顧客導線”が信頼を生み、安定した案件獲得へとつながっている。

若手が活きる組織──「任せる育成」で技術が回る
成長戦略の柱として、もうひとつ注力しているのが“若手人材の早期戦力化”だ。