ハーバード流交渉術を使ったWin-Winを導き出すビジネスコミュニケーション

記事ヘッダー

営業の現場では、毎日のように交渉が発生します。価格の調整、納期のすり合わせ、導入スコープの確定──どれも営業にとって避けて通れない交渉の瞬間です。

しかし、その交渉、"誰かが損をして終わる"取引になっていませんか?

いま求められているのは、「どちらかが勝つ」ではなく「お互いが勝つ」関係──つまりWin-Winの構築です。本稿では、ハーバード流交渉術(原則立脚型交渉)のエッセンスを取り入れながら、営業の現場で再現可能な“実践的ビジネスコミュニケーションを解説します。

目次

  1. 第1節:ハーバード流交渉術とは?──立場ではなく“利害”で語れ
  2. 第2節:営業の現場での応用──「立場」を捨てることで道が拓ける
  3. 第3節:感情を排除しない、“人”への配慮が合意を導く
  4. 第4節:BATNA(代替案)を持つことで交渉に余裕が生まれる
  5. 第5節:Win-Winは「設計」できる──交渉を価値共創のプロセスへ
  6. まとめ:営業が身につけるべき“交渉の構え”

第1節:ハーバード流交渉術とは?──立場ではなく“利害”で語れ

harvard-negotiation-winwin_img1

ハーバード流交渉術とは、ハーバード大学ロースクールの交渉研究プロジェクトから生まれた「利害の対立を創造的な合意に導く手法」です。特徴は、立場ではなく利害にフォーカスし、お互いの価値を最大化する合意を目指す点です。

その基本原則は以下の4つ:

  1. 人と問題を分けて考える(関係性と課題を混同しない)
  2. 立場でなく利害にフォーカスする
  3. 複数の選択肢を提示して合意の幅を広げる
  4. 客観的基準をベースに議論する

つまり、力で押し切るのではなく、“合理性と共感”で合意形成を進めていく──これがハーバード流交渉術の本質です。

第2節:営業の現場での応用──「立場」を捨てることで道が拓ける

日本の営業現場では、「価格は下げられない」「仕様変更には応じられない」といった固定化された考え方やそれぞれの会社立場やルールで交渉が停滞する場面が多くあります。しかし、ハーバード流では「立場」を一旦脇に置き、その背景にある利害や動機を探ることからスタートします。

たとえば、価格交渉において「予算が厳しい」というクライアントに対し、単なる値引きではなく以下のような視点を持てるかが鍵です:

  • 「なぜ、その予算なのか?」
  • 「年度内支出が条件?それともROIに対する不安?」
  • 「長期契約にすれば単価は抑えられるか?」
  • 「お客様が実施することにより価格を抑える方法はないか?」
  • 「そもそも不要なことはないか?」

このように相手の“理由”に迫る問いかけが、対立から共創への扉を開きます。

第3節:感情を排除しない、“人”への配慮が合意を導く

harvard-negotiation-winwin_img2

ハーバード流の大きな特徴の一つに、「感情も交渉要素の一つと認める」という考え方があります。特に日本のビジネス文化においては、「顔を立てる」「メンツを守る」といった感情的要素が極めて重要です。

営業パーソンが陥りがちなのは、ロジック重視で相手の気持ちを軽視することです。提案の正しさにこだわるあまり、相手が「納得していないのにYesと言わざるを得ない」状況を作ってしまう。

Win-Winの合意を目指すには、

  • 「この人の社内での立場は?」
  • 「意思決定に至る感情の背景は?」
  • 「誰の賛同がないと動けないのか?」

といった“人の事情”にまで踏み込む対話力が求められます。

第4節:BATNA(代替案)を持つことで交渉に余裕が生まれる

交渉において、もう一つ重要な概念がBATNA(Best Alternative to a Negotiated Agreement)=合意に至らなかった場合の最良の代替案です。

営業におけるBATNAは、「この商談が不成立でも成立する別の提案や案件を持っている状態」。つまり、選択肢を持つことが交渉の余裕と冷静さにつながるのです。

また、顧客側のBATNAを把握することも戦略的に重要です。

  • 「競合はどのような提案をしているか?」
  • 「社内リソースで対応できる余地があるか?」
  • 「この案件が通らなかった場合、代替手段はあるか?」

このような視点を持つと、値引きではなく価値の再提示によって相手のBATNAを上回ることが可能になります。

第5節:Win-Winは「設計」できる──交渉を価値共創のプロセスへ

harvard-negotiation-winwin_img3

ハーバード流交渉術の極意は、「合意の創造」にあります。営業は単なる条件交渉の場ではなく、未来の共通利益を設計する場だと捉えることで、提案の本質が変わります。

たとえば、価格に折り合いがつかないときも、

  • 「導入後のカスタマーサクセス支援を無償で提供する」
  • 「社内での導入成功事例として公開させてもらう代わりに条件を緩和」
  • 「次年度以降のアップセル前提の今期限定価格を設計」

など、選択肢を広げて合意を生み出交渉設計が可能になります。

営業の仕事とは、相手を説得することではなく、「お互いの利益が重なるゾーン(ZOPA)を見つける」ことに他なりません。

まとめ:営業が身につけるべき“交渉の構え”

ハーバード流交渉術を営業の現場に取り入れることで、価格や条件の押し引きを超えた「信頼に基づく協創関係」を築くことが可能になります。最後に、営業が持つべき交渉の構えを5つに整理しておきます。

  1. 相手の立場の裏にある“利害”を探る問いを持つ
  2. 感情の動きに敏感になり、“人”への敬意を忘れない
  3. 複数の選択肢で合意の余地をつくる
  4. 自分と相手のBATNAを冷静に分析する
  5. 未来の共通利益を描く設計力を養う

この構えを持てば、営業は単なる販売職ではなく、「ビジネスを前に進める交渉のプロフェッショナル」になります。

営業は、対立を超えて価値を共創する職業です。

ハーバード流交渉術は、そのための最強の武器。身につけて損はない一生もののスキルです。

著者プロフィール

加藤 夏美

加藤 夏美
N.K.ナーツ株式会社 代表取締役

中央大学卒業後、証券会社にて個人向けの飛び込み営業2年経験後、外資系IT総合メーカー企業である日本IBMへ転職し25年にわたり法人営業を行う。2020年には日本の営業では20名しか選ばれないグローバルのトップパフォーマーに選出され最高サラリー年収6602万円。
現在は、IBM流の成果につながるセールスイネーブルメントの構築・運営支援、IBM流の提案力アップのコーチング(セールス・エンジニア向け)、レンタル営業部長、レンタル営業企画により企業の営業部門の課題解決を行なっている。

クロージングの記事一覧

Sales First Magazine のトップページへ戻る