展示会場でひときわ目を引いたのは、整然と並べられたステンレス製品と、静かに佇む六角形の焚き火台だった。無機質な素材のはずなのに、どこか温度を感じさせる。そのブースを構えていたのが、和歌山県に拠点を置く株式会社雑賀製作所だ。
2024年12月開催の「新ものづくり・新サービス展」。その現場で話を聞いたのは、代表取締役の雑賀孝之氏。昭和52年創業、父の代から続く「ステンレス一筋」の歩みと、素材の可能性を信じ続ける姿勢が、展示物一つひとつから伝わってきた。

父の代から続く、ステンレス一筋の選択
雑賀製作所の原点は、創業者である父が造船業界に携わっていた時代にさかのぼる。海の現場では鉄は錆びやすい。そのなかで、周囲が錆びていく中でも、ひときわ輝きを保つ素材があった。それがステンレスだった。
「造船の現場は海にさらされるので鉄は錆びるのですが、錆びた鉄の中で、ピカッと錆びていない材料があった」。父が目にしたその光景が、素材への関心を強くしたという。「錆びない素材がある」。その驚きが、事業の出発点になった。
以来、同社は一貫してステンレスに特化してきた。溶接や加工が難しく、歪みも出やすい素材だが、その分、技術とノウハウが蓄積される。「図面通りにきちんと形にするには、相当なノウハウが必要になります」。鉄よりも硬く、加工もしにくい素材と長年向き合ってきたからこそ、雑賀氏の言葉には実感がこもる。父の代から築いてきた技術は、今も確かに受け継がれている。
一社依存からの脱却、多様な業界への展開
雑賀氏が経営を引き継いだ当時、売上は特定の一社に大きく依存していた。「ちょっと危ないなと思った」。そう振り返りながら、取引先の分散と業界の広がりに舵を切った。
メーカーからの引き合いを受け、用途に応じた加工を一つひとつ積み重ねていく。その結果、現在では製薬関連をはじめ、さまざまな産業向けのステンレス製品を手がけている。
こうした対応力を支えているのが、切断から加工、溶接、仕上げまでを社内で完結できる一貫生産体制だ。「すべての工程を社内でできるように設備しています」。工程を外に出さないことで、品質とスピードの両立が可能になる。
ステンレス一筋という「一貫」と、社内一貫生産という「一貫」。二つの一貫が、雑賀製作所の強みを形づくっている。
パイプを自在に切る、三次元レーザー加工という強み
展示ブースで来場者の足を止めていたのが、三次元レーザー加工のサンプルだった。円筒形のステンレスパイプに、複雑な切り欠き加工が施されている。曲線を描く有機的なパターンも、パイプの曲面に沿って正確に切断されている。
「普通のレーザー加工機と違ってこういうパイプとかを加工できる」。平板加工が主流のなか、パイプや立体物を自在に加工できる設備は希少だという。加工機がパイプを回転させながら、複雑な形状を正確に切断していく。展示されたサンプルを見ると、来場者は一様に驚きの声を上げる。
「あまり他社さんではやっていないので、これは強みかなと思います」。雑賀氏がそう語るように、この三次元レーザー加工は、同社を象徴する技術の一つだ。

技術を「使う側」の視点で形にした、自社キャンプ用品
新たな挑戦として自社ブランドのアウトドアギア開発を始め、2025年に「SOLES」としてブランドをローンチ。背景にあるのは、雑賀氏自身のキャンプ経験だ。10年ほど前から家族でキャンプを楽しんできた。子どもが大きくなり、なかなか行く機会は減ったが、その経験が製品開発に活きている。
「水に強くて、洗っても劣化しにくい」。ステンレスの特性を活かし、焚き火台やテーブルといった製品を展開している。
焚き火台は約2kgと重量感がありながら、安定性が高い。使わないときに置き場所を取ってしまうのは避けたかったため、邪魔になりにくい設計にこだわった。
デザインは外部デザイナーと協業し、無骨さと洗練さを両立させた。「自分の発想だけでは、ここまでは思いつかない」。雑賀氏はそう笑う。ロゴやネーミングも含めて依頼し、ブランド全体の統一感を整えた。六角形の焚き火台に合わせた展示用のポップは、若手社員のアイデアだという。技術だけでなく、「使う場面」を想像する姿勢が、製品の細部にまで反映されている。

BtoC展開の裏側──外部の知見を取り入れる選択
本業はBtoBだが、アウトドアギアはBtoC向けのEC販売となる。ECやSNSについては、社内に知見やノウハウがほとんどなかったため、外部の力を借りることにした。
活用したのが、副業人材だ。インスタグラムの立ち上げから、自社で運用できるようになるまでのレクチャーを依頼した。短期間・小規模の契約で、必要な部分だけを学べる点も決め手になったという。
今後は、製造工程の様子なども発信していきたいと考えている。ものづくりの現場を知るからこそ、伝えられることがある。ただ、日々の業務に追われるなかで、なかなか撮影まで手が回らないこともあると、雑賀氏は笑う。
展示会は効率的に「知り合う」場
雑賀製作所にとって展示会は、単なる受注の場ではない。県が主催する、年に2回開催されている商談会も活用しながら、「知り合う」ことを大切にしてきた。
事前にニーズが分かるため、話が早い。「こういう製品を作ってほしい」「それなら、こんな加工ができます」。そうした具体的なやり取りができ、的外れな商談になりにくい。
展示会でも同様だ。加工技術や製品を実物で見てもらい、会話を重ねる。その積み重ねが、次の相談につながっていく。愛知県だけでなく、東京、大阪の展示会にも足を運び、接点を広げている。
ステンレスの価値を伝える──長く使える素材という視点
ステンレスは、鉄に比べて初期コストが高い。しかし雑賀氏は、その価値を長期的な視点で捉えている。「初期コストは高いけれど、一度導入すれば長く使える。すごく良い素材だと思います」。
原材料価格の変動はあるものの、耐久性の高さを考えれば、長期的な価値は揺るがない。ステンレス材は日本製の材料を商社経由で調達し、シートの状態で仕入れて社内で加工している。価格転換についても、その時々の条件に合わせて柔軟に対応してきた。
積み重ねが生む、相談したくなる存在感
雑賀製作所のものづくりは、派手さよりも積み重ねに価値を置く。ステンレス一筋で磨いてきた技術と、使う人の視点に立った発想。その両方があるからこそ、相談したくなる存在として選ばれてきた。
一社依存からの脱却、三次元レーザー加工という強み、BtoCへの挑戦。その一つひとつが、素材の可能性を広げる取り組みだ。技術はある。素材も知っている。その強みを、製品という形で丁寧に伝えていく。展示会のブースで感じた静かな熱量は、同社の歩みそのものだった。
株式会社雑賀製作所
代表取締役 雑賀 孝之
事業内容:ステンレス製品の製造・加工、自社キャンプ用品の企画・販売
URL:https://www.saika-ss.jp/