世界市場を切り拓いた「直販×技術営業」──エヌ・ピー・シーの営業戦略

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太陽電池産業がまだ黎明期にあった1990年代。株式会社エヌ・ピー・シーは、20名規模の町工場から世界最大級の太陽電池メーカーへ"直販"で挑み、アメリカ・欧州・アジアへと市場を広げた。中国勢の台頭による市場崩壊や買収失敗で大きな危機も経験したが、その過程で生まれた"顧客価値中心の技術営業"は、今日の強固な事業基盤につながっている。

現在は、次世代太陽電池(ペロブスカイト)や太陽光パネルの水平リサイクル技術を軸に、新市場での成長を見据えている。世界で勝ち続けるための営業戦略とは何か。そして、これからどこへ向かうのか。

負債から始まった町工場を、世界市場へ導いた「直販戦略」

エヌ・ピー・シーの創業は1992年。伊藤雅文社長は機械工学の出身ながら商社に就職し、その後イトマン事件を契機に"ものづくり"への原点回帰を選んだ。創業時に引き継いだ会社は、負債を抱えた小規模な町工場。その技術と人を丸ごと引き受け、約2億円の負債を背負ってのスタートだった。

主力は真空装置だったが、太陽電池の研究用途での受注が増え始める。まだ太陽電池の量産体制すら整っていない時代だ。「いずれ世界市場が動く」という予感を捉え、伊藤社長は思い切った戦略に出る。それが、商社等を通さない"直販"による海外開拓だった。

当時の装置メーカーとしては極めて異例だが、これが奏功する。アメリカ市場での直販は、顧客の声を直接聞き、装置仕様の細かい要求に即応できる強みにつながった。結果、世界最大級の太陽電池メーカーから高い評価を受け、短期間で実績が積み上がる。

その後、アメリカで得た信頼と技術力を武器に、欧州市場へ展開。ドイツを中心にFIT政策(固定価格買取制度)が導入されると、太陽電池市場は急拡大し、エヌ・ピー・シーは波に乗って欧州での実績をさらに広げていった。

「新しい市場では、スピードと柔軟性が何より重要です。商社等を挟まないことで、顧客との距離が近くなり、装置の改善も迅速にできた。結果として信頼につながりました」

世界市場を切り拓いた原動力は、"技術力"だけではなく、顧客中心の意思決定と、行動するスピード感にあった。

世界で勝ち続けた理由──"技術営業"が生んだ価値

太陽電池装置は、一般的な汎用品とは異なり、顧客の製造プロセスに合わせて一品一様で設計が必要となるケースが多い。住宅で例えるなら、完全注文住宅のようなものだ。営業には、顧客の工程・仕様・課題を深く理解する力、技術者と二人三脚で設計を詰めていく力、そして「世界に一台」の装置をつくる責任が求められる。

エヌ・ピー・シーは、小規模であるがゆえの機動力を生かし、この領域で圧倒的な競争力を発揮した。特に海外では、日本と異なり意思決定が速く、「価格をめぐる細かい駆け引き」も少ない。そのため直販での営業力と技術力が、そのまま成果に直結した。

さらにアメリカでは、太陽電池メーカーの多くがベンチャー企業だったことから、新技術への取り組みも積極的で、エヌ・ピー・シーのような柔軟な技術メーカーと相性が良かったという。

伊藤社長はこう語る。「技術力があるのは前提ですが、勝てた理由は"誠実さ"と"スピード"。顧客の課題に真っ直ぐ向き合い、やると決めたら必ずやり切る。それが信頼につながったのだと思います」

この時期の積み上げが、今日に続く海外での強固な顧客基盤の源泉になっている。

市場崩壊と買収失敗──危機から生まれた"経営の進化"

順風満帆だった事業は、2000年代後半の中国台頭により激変する。太陽電池市場は過剰生産と価格崩壊に陥り、主要顧客が次々と破綻・撤退した。さらに競合メーカーの買収も裏目に出て、グループ全体が経営危機に直面した。

最も厳しい時期には、650名いた従業員を大幅に絞り込み、海外拠点も閉鎖。伊藤社長は自ら各国を回り、解散や撤退の説明を行った。

「逃げられない。トップとして、自分がやらなければいけない」

この経験から、伊藤社長は"会社を普通の組織に戻す"ために、制度改革・人事制度の整備・ガバナンスの強化を徹底し、持続可能な組織づくりへ舵を切る。危機は、エヌ・ピー・シーの"第二創業期"とも言える経営改革を生むことになった。

太陽電池の次の波へ──ペロブスカイト×装置開発の挑戦

現在、エヌ・ピー・シーが力を入れる分野のひとつが、軽量で低コスト化が期待される次世代太陽電池ペロブスカイトだ。韓国の先端技術企業やアメリカ、国内メーカーなど、複数の企業と連携しながら装置としての実用化を目指している。

市場はまだ不透明な部分も多いが、伊藤社長は「今のうちから技術を持つことが重要」と語る。黎明期の太陽電池市場に果敢に挑んだ姿勢を、再び示し始めている。

10年越しの成果──太陽光パネル"水平リサイクル"の実用化

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