久しぶりに「部品加工」を前面に出した展示
展示会場を歩いていると、ふと足を止めてしまうブースがある。
精密に仕上げられた金属加工部品が整然と並ぶ一方で、モデルガン部品や独自開発の製品が同じ空間に置かれている。その並びからは、単なる加工技術の紹介では終わらせないという意志が伝わってきた。
新潟県燕市に拠点を構える有限会社イワセ。同社が今回の「新ものづくり・新サービス展」で見せていたのは、部品加工という枠を越えて歩んできた町工場の現在地だった。
実は、同社が部品加工そのものを前面に押し出した展示を行うのは久しぶりだという。ここ10年ほどは、特許技術を活用した自社商品やアセンブリ製品を中心に出展してきた。今回、あえて加工部品を再び前に出した理由について、瀬戸光一社長はこう振り返る。
「ものづくり補助金で採択された製品があったこともありますし、久しぶりに“加工屋としての顔”を見せてもいいかなと思ったんです」
燕市は、半径数キロ圏内に多くの町工場が集積する地域だ。同業者が多いからこそ、加工品を並べるだけでは差が伝わりにくい。そこで今回は、特許技術を活かした製品や小型精密部品、独自性の強い加工サンプルを組み合わせ、「一目で違いが伝わる」展示を意識したという。

半径5キロで完結するものづくり
有限会社イワセのものづくりを支えているのが、地域内で工程を完結できる環境だ。燕市周辺には加工に関わる企業が集積しており、半径5キロ圏内でほとんどの工程が成立する。
「この地域は、加工をやるには本当に恵まれています。近い範囲で、ほぼ全部完結できるんです」
同社が得意とするのは、小物部品の旋盤加工だ。半導体製造装置向け部品やモデルガン部品など、精度が求められる小型部品を、できるだけ人手を介さずに機械加工主体で仕上げていく。
「人数が多い会社ではないので、人を次の工程に回す前提では考えていません。機械の中で完結させて、朝には部品ができている、という形をずっと意識しています」
工程を集約することで、コストだけでなく品質の安定やスピードにもつながっている。この考え方は、同社のものづくりの根幹になっている。
リーマンショックが突きつけた現実
こうした姿勢が形づくられた背景には、リーマンショックの経験がある。かつて同社は、大手同業メーカーの下請け仕事が売上の大半を占めていた。しかし、景気後退とともに仕事は一気に減少した。
「本当に、仕事が一気になくなりました。このままでは持たないな、と強く思いました」
工業団地への移転や設備投資を進めた直後だったこともあり、状況は決して楽ではなかった。そこで瀬戸氏が考えたのが、大手の下請けに依存しない道をつくることだった。
特許と自社商品で築いた「越えられない差」
同社が選んだのが、特許技術の取得と自社商品の開発だ。大学に研究室を持ち、教授陣と共同で研究を進め、特許を取得する。しかし、瀬戸氏は当時を振り返り、「特許を取ることよりも、その後が大変だった」と語る。
「特許は取れたけれど、それをどう使えばいいのか、正直よく分からなかったんです」
技術をどう応用し、どう商品に落とし込むか。大学と共同で研究を重ねながら、少しずつ形にしていった。その積み重ねが、自社ブランド製品の確立につながった。
特許を維持できる体力、自社製品を持つこと、さらに教育や研修事業まで手がけている点は、同業他社との間に明確な差を生んでいる。「相手が真似しようと思っても、簡単には越えられない状態をつくりたかった」と瀬戸氏は語る。
技術を“教える”というもう一つの事業
有限会社イワセの取り組みは、国内のものづくりにとどまらない。同社では、ミャンマー人材の受け入れと育成、さらには現地につながる研修事業にも取り組んでいる。
「技術を学んだ人たちが、いつか母国に戻ったときに、現地で事業を起こしたり、社会に貢献できたらいいなと思っています」
日本の現場で技術を学び、介護や建設分野などで活躍する人材も増えている。ものをつくるだけでなく、人を育て、技術を次につなげていくことも、同社にとっては大切な挑戦だ。

展示会は「売る場」ではなく「視野を広げる場」
意外にも、瀬戸氏は展示会を売上獲得の場とは考えていない。
「正直、展示会から仕事につながることはほとんどないですね」
実際の新規案件の多くは、インターネット経由だ。ホームページを見て問い合わせが入り、そこからリピーターへとつながっていく。条件面でも健全で、同社の考え方に合っているという。
展示会は、情報交換や他社の考え方に触れる場であり、自身の視野を広げる機会でもある。そうしたスタンスが、無理のない事業運営につながっている。
「挑戦する旋盤加工屋」であり続けるために
有限会社イワセのホームページには、「挑戦する旋盤加工屋」という言葉が掲げられている。
半導体、モデルガン、医療、農業と、分野を限定せず、声がかかれば挑戦する。そのために必要なのは、安定した本業と、挑戦を支える体力だと瀬戸氏は語る。
「挑戦するには、本業がしっかりしていないといけない。資金力も、アイデアも、実行力も必要ですから」
町工場でありながら、特許、製品、教育、海外と複数の軸を持つ。その一つひとつは派手ではないが、積み重ねた結果として、簡単には揺るがない企業の姿がある。展示会場に並んでいた製品群は、その歩みを静かに物語っていた。
会社情報
会社名:有限会社イワセ
代表者:代表取締役 瀬戸光一
事業内容:精密旋盤加工、各種金属部品加工、特許技術を活用した自社製品開発、人材育成・研修事業
URL:https://www.iwase-monozukuri.com/