突然ですが、皆さんは「イノベーション」と聞いて何を想像しますか?
空飛ぶ車?
医療のブレークスルー?
数百億円の投資?
もちろんそれらもイノベーションですが、私の専門家としての見解は少し違います。
イノベーションの本質は「既存のものの新しい組み合わせ」
偉大な経済学者シュンペーターが語った通り、真のイノベーションの多くは、全くゼロから生み出されるのではなく、「すでに存在する要素」を、誰も思いつかなかった形で「掛け算」することから生まれます。
そして、この「掛け算イノベーション」の好例が、最近話題の「漫才カラオケ」です。
「漫才カラオケ」とは何か?
「漫才カラオケ」とは、名古屋大学などが開発した「未経験者でも漫才を演じることを可能にするシステム」の通称です。
これは、既存の「カラオケ」という誰もが知るインフラと、「漫才」という日本のエンターテイメント文化を、「AI技術」で組み合わせたものです。
具体的な仕組みはこうです。
- 画面にセリフが表示される:
まるで歌の歌詞のように、ボケ役とツッコミ役のセリフがタイミングに合わせて表示されます。 - 音声とタイミングでシステムが支援:
利用者が読み上げるセリフのスピードやタイミングをシステムが感知し、適切な間(ま)やツッコミのタイミングをナビゲーションしてくれます。 - 未経験者でも「プロ気分」:
普通の人が一朝一夕には身につけられない「間」や「リズム」を技術がサポートしてくれるため、誰もが気軽に漫才を「体験」できるようになるのです。
まさに、「歌を歌う」という既存の体験を、「漫才を演じる」という新しい体験に変換した、素晴らしい事例です。
経営者が漫才カラオケから学ぶべき3つの教訓
この一見ユニークな事例は、私たち経営者やマーケターに、ビジネスアイデアを生み出すための重要なヒントを与えてくれます。
教訓 1:既存資産の「機能」を再定義せよ
成熟した市場で戦うとき、既存の技術や商品に「新しい機能」を追加しようとしがちです。しかし、この事例が教えてくれるのは「既存の資産を新しい視点で再定義する」ことです。
- カラオケボックス:
既存の機能:「歌う場所」
再定義された機能:「ステージ」、「演じる場所」 - カラオケの字幕技術:
既存の機能:「歌の歌詞を読む」
再定義された機能:「台本を読む」、「タイミングを計る」
あなたの会社が持つ既存の技術、顧客リスト、あるいは「文化」そのものを、全く別の市場に向けて「何に使えるか?」と問い直すことから、新たなイノベーションの種が見つかるはずです。
教訓 2:「誰もが参加できる」で市場の壁を壊す
漫才をやるには、才能、経験、そして膨大な練習が必要です。つまり、参入障壁が非常に高いエンタメでした。
しかし、「漫才カラオケ」は、システムによる支援によって、その参入障壁を一気に下げました。
「やりたいけど、難しそうで手が出せない」
「興味はあるけど、自信がない」
という潜在層を、誰もが楽しめる「体験」のステージに引き上げることこそ、イノベーションの大きな役割です。
あなたの事業が提供するサービスや商品も、「ハードルが高い」と感じている潜在顧客に向けて、いかに「技術の力で簡単にするか」を考えることが、新市場開拓の鍵となります。
教訓 3:「大発明」でなくても勝てる
新しい事業を立ち上げる際、「誰も持っていないAIを開発しなければ」「巨額の資金を投じなければ」と考えがちです。
しかし、「漫才カラオケ」は、既存のカラオケのインフラ、音響、画面、そして比較的安価なAI技術を「組み合わせた」結果、生まれたアイデアです。
これは、「アイデアの掛け算」は、「投資の大きさ」よりも重要であることを示しています。
既存の技術を賢く活用し、低コストで新しい価値を生み出す姿勢は、特に変化の激しいデジタルマーケティング業界において、非常に重要です。
あなたのビジネスの「A × B」は何ですか?
イノベーションは、遠い未来の話ではありません。
あなたの事業が持っている「A」という資産と、顧客が潜在的に求めている「B」というニーズ。この二つをどう掛け算するか?という思考が、明日を切り開くヒントになります。
ぜひ、この週末にでも、自社の既存の「A」をリストアップし、それに何を掛け算できるか、ブレーンストーミングしてみてください。
著者プロフィール

安藤 芳樹
「セブンチャート仕事術」開発者。セブンチャートインストラクター、オフィスミラクス代表
広告代理店(ADK)に勤務しながらドラッカーを実践。「5つの質問」で企業トップとの事業の定義を合意しながら経営者視点で商談を進め顧客に認められる。40歳の頃、ビジネス観や人生観に普遍の基盤をもちたくドラッカーに目覚める。その知見体得のために試行錯誤してたどり着いたのが「セブンチャート仕事術」。その体得のためにやった反復訓練は30000ページのチャートを作るにいたり、今も増殖中。さぬきうどんブームの仕掛け人であり、映画「UDON」のトータス松本の役柄モデルでもある。立教大学卒業。2021年12月23日 初の著書「チャートで考えればうまくいく」を上梓。