展示会のブースで、まず目を引いたのは名刺だった。手に取ると、それが"ただの名刺ではない"ことに気づく。基板を模したデザイン。思わず裏返し、質感を確かめたくなる。中小企業 新ものづくり・新サービス展の会場で、そんな第一印象を残していたのが、鳥取県に拠点を置くアロー産業株式会社だ。
基板を製造する会社は数多くある。だが同社が得意とするのは、いわゆる「一般的な基板」だけではない。放熱に特化した金属ベース基板、そして表面と裏面で異なる材料を組み合わせたハイブリッド基板。ブースに並ぶ製品サンプルは派手さこそないが、説明を聞くほどに「なるほど、これは簡単ではない」と感じさせる内容だった。
「手間がかかるから、他社はやりたがらない」
アロー産業の製品構成を見ると、一般的なガラスエポキシ基板が全体の約6割を占める。残り4割が、同社の真骨頂である放熱基板を中心とした特殊基板だ。
「放熱基板は、金属ベース──アルミや銅を使った基板です。表面に回路を形成し、裏面の金属層を通じて、発生した熱を効率的に外部へ逃がします」と矢谷氏は説明する。
さらに同社が強みとするのは、銅ベース基板と通常のガラスエポキシ基板を一体化させたハイブリッド基板だ。部分的に高い放熱性能が求められる箇所には銅ベースを、それ以外の部分には通常基板を配置する。表から見ると一枚の基板に見えるが、裏を見ると金属部分とエポキシ部分が混在している。
「正直、手間がかかるんです。だから他社さんは『面倒だからやらない』という判断をされることが多い。でも、お客様の課題を解決するには、こういう基板が必要なケースがある」
矢谷氏の言葉には、小ロット・多品種対応を前提とした同社の姿勢が表れている。大量生産では価格競争力で勝負できない。だからこそ、他社が避ける「面倒な基板」にこそ価値がある──その信念が、同社の製品ラインアップを形づくっている。

UV-LED市場で存在感を発揮
では、こうした放熱基板は具体的にどこで使われているのか。
主な用途は、ハイパワーなLED照明、特にUV-LEDの分野だ。UV-LEDは、殺菌、印刷インクの硬化、水の洗浄など、産業用途で急速に普及が進んでいる。しかし、通常のLEDと比較して発熱量が大きいという課題がある。
「UV-LEDは本当に熱を発するんです。そのまま使うと性能が落ちたり、寿命が短くなったりする。だから、いかに熱を逃がすかが設計のポイントになります」
同社の放熱基板は、こうした高発熱デバイスの熱マネジメントを担う。医療機器メーカー、産業機器メーカー、照明器具メーカーからの引き合いがあり、「アロー産業に頼めばやってくれる」という信頼関係を築きつつある。
「できません」とは言わない姿勢
取材を通して印象的だったのは、技術力そのもの以上に、顧客との向き合い方だった。
「基本的には、お客様から『こういうことできないか?』と相談をいただいて、それをベースに作っていきます。『できません』とは言わないように、色々と試行錯誤して、形にしていく」
難易度の高い要望であっても、話を遮らず、まずはしっかりと聞く。実現方法をその場で即答することはなくとも、「どうすればできるか」を一緒に考えようとする姿勢がある。
取材担当者が感じたのは、「ここにお願いしたら、何とかしてくれそう」という安心感だ。
それは、過剰な自信や大げさな営業トークから生まれるものではない。できること、できないことを誠実に見極めたうえで、それでも前向きに検討する。その積み重ねが、信頼につながっているのだろう。
社内一貫生産体制と協力会社ネットワーク
こうした柔軟な対応を支えるのが、同社の社内一貫生産体制だ。
従業員約40名の体制で、基板の設計から製造までを社内で完結させる。一部の穴あけ加工など、特殊な機械が必要な工程は外注するが、基本的な製造工程──エッチング、レジスト形成、表面処理──は自社で行う。
さらに、部品実装については協力会社数社とネットワークを構築。基板製造から部品実装まで、一気通貫で対応できる体制を整えている。
「お客様によっては、『基板だけじゃなくて、部品も載せた状態で納品してほしい』というニーズがあります。そういう時は、実装会社さんと連携して対応します」
設計から実装まで、顧客の要望に応じてワンストップで提供できる。これが、小ロット・カスタム対応を得意とする同社の強みになっている。
印刷業からの転身、ゼロからの学び
現在、アロー産業を率いる矢谷賢司氏は、もともと基板の専門家だったわけではない。
同社の創業は約40年前。当時、鳥取三洋電機(現在は事業譲渡済み)から「印刷技術の延長でプリント基板を作れないか」という相談があり、印刷会社の一部門としてプリント基板事業がスタートした。その後、印刷事業と基板事業が分社化し、アロー産業が独立した形となる。
矢谷氏が事業を引き継いだのは、父親の病気がきっかけだった。当時、矢谷氏は印刷会社の方で働いていたが、急遽、基板事業に移ることになった。
「父とは一緒に基板の仕事をしたことが一度もなかったんです。私は印刷会社から来たので、基板に関しては本当にゼロの知識でした。営業部の課長と二人で、一から学びながら少しずつ理解を深めていきました」
分からないからこそ、ちゃんと聞くしかなかった。日々の商談や相談の中で、顧客が何を求めているのか、どこに困っているのかを吸収し、それを次の提案や製品づくりに活かしてきた。
その後、約3年間は取締役や常務といった役職で経験を積んだが、当初の予定より2年早く社長に就任することになった。「本当はもう少し勉強してからと思っていたんですけど、早まってしまって」と笑うが、その後の歩みを見れば、学びながら経営を続けてきた姿勢が、今のアロー産業のスタイルを形づくっている。
鳥取県唯一の基板メーカーとして
アロー産業は、鳥取県で唯一の基板部品メーカーでもある。
「鳥取県内には、他に基板をやっている会社がないんです。だから、何か困ったことがあっても『近くの同業者に相談する』ということができなくて。それが最初は大変でした」
地方に拠点を構えることは、決して有利な条件ばかりではない。情報も限られるし、人材の確保も容易ではない。実際、同社では新入社員を採用しても、基板の知識を持っている人はほとんどいない。CADは触れるが、基板設計の経験はゼロという状態から育成することが多い。
しかし同社は、それを理由に引くことはしなかった。
創業当初は鳥取三洋電機を中心に地元顧客が大半を占めていたが、同社の事業縮小に伴い、関西・関東方面へと販路を広げてきた。展示会への出展、ホームページの強化、そして何より「あの会社に頼めば何とかしてくれる」という口コミが、徐々に全国へと広がっている。
「鳥取から全国に向けて、鳥取の技術力を発信していきたい。地元にもしっかりと雇用を提供しながら、日本全国のお役に立てるような会社を目指しています」矢谷氏はそう展望を語った。
展示会は「始まりの場」
矢谷氏は、展示会を単なる営業の場とは捉えていない。
「正直、展示会でその場で受注というのは難しいです。でも、名刺交換をして、後からホームページを見ていただいて、『こういう会社があったな』と思い出してもらえる。そういうきっかけづくりが大事だと思っています」
いきなり商談や受注を狙うよりも、まずは知ってもらうことを重視している。技術のこと。会社のこと。どんな姿勢で仕事に向き合っているのか。それを直接伝えられるのが、展示会という場だ。
今回の展示会でも、基板デザインの名刺、製品サンプル、そして矢谷氏自身の穏やかな語り口が、来場者の記憶に残るよう工夫されていた。
アロー産業株式会社 代表取締役 矢谷賢司氏
「相談される技術会社」であり続けるために
アロー産業が目指しているのは、特定の商品を売り続ける会社ではない。「何か困ったときに、まず相談される存在」であることだ。
特殊な基板、材料の組み合わせ、前例の少ない要望。そうした相談が持ち込まれたときに、逃げずに向き合う。簡単ではなくても、考え抜く。
展示会のブースで交わされていた一つひとつの会話は、その姿勢の表れだった。名刺一枚から始まった印象は、取材を終える頃には確信に変わっていた。
アロー産業は、技術を売る会社である前に、相談を受け止める会社なのだ。
そして、その背景には放熱基板という具体的な技術があり、UV-LED市場という明確なターゲットがあり、社内一貫生産という対応力がある。
鳥取県唯一の基板メーカーとして、全国のものづくり企業の課題解決を支える。その静かな、しかし確かな存在感が、これからも広がっていくだろう。
URL:https://arrow-sg.co.jp/
所在地: 鳥取県
主力製品: プリント基板(一般基板、放熱基板、ハイブリッド基板)
主要市場: UV-LED照明、医療機器、産業機器